いのち(未来山脈第361号より抜粋)

しっかり抱いて寝た湯たんぽだんだん冷えて目覚める

諏訪 百瀬町子

取り敢えずすももの花と詠んでおくほんとはプラム思い出せなくて

札幌 石井としえ

背中に重い父親の古いオーバー盃を口にする仕草が似ているらしい

藤井寺 近山紘

油の海から上がったばかりのかりんとうが蝶に変身 わたしの手に羽を広げる

千曲 中村征子

山桜の花盛りを見ている二人とも 老老盛り 今惚け盛り

豊丘 毛涯潤

鶯の山はけずられ削られビル風の物干し竿で鳴いている

横浜 上平正一

大伴旅人と憶良も暮らした筑紫から時を越えて令和が鳴り響き

岡谷 佐藤静枝

方々の知恵をしぼった元号の誕生秘話は令和に決まる

諏訪 伊藤泰夫

書にした歌詞のイメージを和傘や段ボールや枯葉で膨らませて

米子 角田次代

GWの東京は人の波に乗り一泊二日のスケジュール乗りこなす

諏訪 浅野紀子

腰痛と練習量 母への負担を心の内に 初めて泣いた孫の駿

原 桜井貴美代

空っぽになった娘の部屋 三年間の経験を軽トラに積む

原 泉ののか

芽吹きの季節 プチプチと出た小さな緑が光り輝いてたちまち宝石の森に

原 森樹ひかる

まだかなあ毎日見る桜の蕾 色付き膨らみ期待増す

原 太田則子

春を信じる事が出来ない 冬に枯葉を出す草木のように

つくば 辻俱歓

ボロボロになるまで読んでいるこの詩集 活字の貌も色も匂いも

下諏訪 中西まさこ

通称男の上着を背広と言うが語源はイギリスのサビルローとか

諏訪 宮坂きみゑ

物忘れ進みし我は自信無くして愚痴が出てしまうよ

下諏訪 小島啓一

繁る葉にかくれて赤き椿きのうきょう春はどっと寄せてくる

岡谷 武井美紀子

人は皆重い荷物を背負っている さだまさし流の話術でいやされる

米子 稲田寿子

青山浩吉様 ごきうだいみなごりっぱごけつこんこうふくくらされ

鹿沼 田村右品

公園の傍を駆ければ虫たちと顔面で逢う季節になった

愛知 早良龍平

捨てなければ踏みだせなかった幾つか 君の歩調で花びらのなか

諏訪 松沢葉子

藤棚の下に机椅子を運び込み利用者の手をとって一人ずつ移動する

飯田 中田多勢子

有明の開門を迫るアサリ鉄のゲートは政治力で閉ざす貝は泡を吹く

埼玉 清水哲

こまぎれにしか眠れなく蛙の目借時も度々でボーッと生きる一人身

米子 大塚典子

輪唱を思わせるように散るさくらの花びら風のおもむくままに

岡谷 土橋妙子

そよ風に揺られて飛んだ紋白蝶 枯葉のように一気に消えた

小浜 川嶋和雄

テレビ越しに発表された令和というまだ他人のような元号

諏訪 藤森あゆ美