今年も盆が来た

花見潟墓地の石燈籠について

わたしの育った鳥取県東伯郡琴浦町赤碕には海辺に約二万の墓が東西約350メートルに渡って立ち並ぶ。各墓地にはそれぞれ石燈籠が並び、盆の前に、燈籠に和紙を張り付けたり、灯をともす準備で大忙し。いよいよ盆になると、その燈籠に灯が着く。育った稼業は盆と正月はとくべつ忙しい料理屋。8月13日の夕方には迎え火を炊くのである。父母には忙しい時期なので夕方には墓参りのできる祖母と子供が石蝋燭に灯をともす役目。燈籠の灯が海風で消えてしまわぬように、四隅を和紙で留め、一方だけ長く延びた和紙を石で押さえる。それを済ませて、オガラ(麻の茎か)に灯をつけて「迷わないで来てください・こなかあれござれ」と声を出しながら火の粉を墓石の頭に降りかける。

家業を終えた父母はやっと8時ごろに墓参り。高台から眺める燈籠の灯が日本海に並行して1キロも繋がっているような墓地をゆらゆら赤い灯が揺れて、それは幻想的。冥途の世界とはこのようなところかと思える。

信州に嫁いで、燈籠に火をつけるという墓参りの行事は遠い夢となった。ここでは、盆は先祖の霊が自宅に帰ってくるので墓参りはしない。玄関先に白樺の皮を燃やして霊を迎える。今年も日本海にそった故郷の花見潟墓地の燈籠の灯はゆらゆらとあの世とこの世の橋渡しをしているのであろう。

 

赤い灯ゆらゆら

・あちらからこちらからゆらゆら赤い灯こぼれ奇(あや)し昏い海辺

・闇に浮く赤い灯の群れ波の伴奏にのって母が還ってきた

・燈籠は重なるように火の群れとなりあの世とこの世を結ぶ