太陽はいま(未来山脈第364号より抜粋)

亡き人の好物鰻が届く土用の牛の日 逝って七年友ありて
岡谷 三枝弓子

温かい雨にうたれてじっと居る 心よ立て わたしの心よ
下諏訪 笠原真由美

夜中に歌を思い付き起き出して机に向かう老いの独り暮らし
太田原 鈴木和雄

ギリギリの人生どこで踏み外したか写らない写真機のレンズの向こう
藤井寺 近山紘

猫の背に似た丸い猫城址ユニークな城の名は山容から
北九州 大内美智子
脳みその片隅までも探索する 宇宙にはいない神の痕跡
東京 木下海龍

眠りつけなかった朝の目覚めカーテンの隙間から祈りのような光
札幌 西沢賢造

「二葉館」女優貞奴になりきり螺旋階段下りてみる 老女の寄り道

愛知 川瀬すみ子

朝の熱っあつのコーヒーふうふうと 今日の命の活力
諏訪 百瀬町子

一字抜けても変わってしまう内容 短歌のこわさと難しさ
岡谷 佐藤靜枝

「宅老所かけはし」でぼた餅を作る十名がビニール手袋をして

飯田 中田多勢子

四季折々 高島易断編集の暦本めくる 半信半疑でも人生ガイド
大阪 與島利彦

私たちは地球という巨大な岩石の上で暮らす
青谷 木村草弥

灯篭に灯ともすは故郷(くに)の習いにて夜の墓地にて祖先と話す

神戸 粟島遥

人生は照る日曇る日降る日あり よろこびときめき葉月を迎える

京都 岸本和子

この人は今何を考えていますか 考えても人の役に立つのだろうか
千住 中村千

一瞬の輝きがみんなを魅了 目を凝らして息を止めて見る
米子 角田次代

夏空に浮かんだ雲がとけ出しそうな暑さ 飛ぶ鳥も紅に染まる夕刻
辰野 里中沙衣

メキシコ産の南瓜にエイと刃を立てる台所はゴッホの黄(きい)に染まる
岡谷 土橋妙子

目を覚ます 主の祈りから朝がはじまる神様の愛につつまれて
諏訪 上條富子

別れ別れになった友を思いつづった「群青」の歌思い込めて歌う
坂城 宮原志津子

暑さに弱くなったのか温度計を見るのを避けてやりすごす
諏訪 浅野紀子

伯父と叔母をそれぞれ見舞う 歩けなくなった二人を見て運動に励む父
諏訪 宮坂夏枝

子や孫の手をつないだ宵祭りは遠い夢 祭りばやしを聞く

下諏訪 藤森静代

風を受け止めネジバナ凛と立つ赤を誇示しながらも密やかに
木曽 古田鏡三

死者も生者も満面の笑みであれ 初盆の日の白い道
富田林 木村安夜子

あかるい空から雨が落ちる 軽く流してはならぬ六月二十三日
岡谷 唯々野とみよ

別になんだっていいやと思ったら楽になった御嶽海も勝った
箕輪 市川光男

汗ズタズタの野良着脱ぎ あおぐ夕陽働ける幸せ
福知山 東山えい子

少ないと物足りなく多すぎると大変 今年も部活漬けの夏だ
松本 下沢統馬

悲しみよ身を垂直にして流れゆけ 黒いコートの雨粒払う
一関 貝沼正子