素足(未来山脈第372号より抜粋)

しがらみ年ごとに外して古希 瀬と淵の際も知らず逆らう
松山 三好春冥

八幡の杜の木々に淡い花を咲かせるなごり雪 華やか故のはかなさ
岡谷 三枝弓子

とうに忘れていた約束靴の紐がほどけているのを見て思い出した
藤井寺 近山紘

コロナで休校ドキッ! 孫ら三人預かって ありそう
福知山 東山えい子

歌集「信天翁」が届く 病気療養中の私には意味深に響く歌集名
大阪 加藤邦昭

山から里へ降りて来る朝もやの中 車走らせポストへ短歌投函する
辰野 里中沙衣

初詣での階段のぼれば蹌踉(よろ)けてる八十間近の萎びた青年
横浜 上平正一

世界中に広がるコロナウイルス 人々の流れ密度の濃さを再確認する
坂城 宮原志津子

冬物をまとめて車に積み込むこの冬物来年も着るつもり自分に問う
東京 鷹倉健

居心地悪そうに並んでいる玄関前の雪かき春に追われて
諏訪 大野良恵

また泣ける何が悲しいわけじゃない いたわりなのか確かな助言
諏訪 伊藤泰夫

春の下弦の月 オリオン座瞬く大きな窓の真夜中
諏訪 河西巳恵子

生きる資格が無いかもしれないのは分かっているそれでもささやかな幸せを
つくば 辻俱歓

放たれて何処へと限りなく夫と行く 深山は二人を飽きさせない
岡谷 横内静子

冬枯の我庭に春一番告げるサンシュユの黄花道行く人も振りかえる
岡谷 三澤隆子

ここからは見えないはずの富士山を蜃気楼のように雲つくり出す
岡谷 柴宮みさ子

海の近くに住みたい 僕の住む長野県はどこを見ても山
松本 下沢統馬

ささやかにバレンタインデーに込めた愛ふぞろいのまま箱に詰め
岡谷 金森綾子

ふきのとうを夢中で採ってザルいっぱい天ぷらのほろ苦さ
岡谷 片倉嘉子

人のいないスクランブル交差点に歩行者信号が点滅している
下諏訪 笠原真由美

暗いニュースの日々楽しいことを考え免疫力アップ 身を守りながら
米子 角田次代

ギャーギャー騒ぐ外の光景は上の空テレビ点ければ新型肺炎の話題
群馬 剣持政幸

駐車場にぽろんっと一つ苺が日向ぼっこ 誰にでもない赤い孤独
愛知 川瀬すみ子

目が覚め短歌をつくろう目がちらちらして字が書きにくい
諏訪 上條富子

かわいくないはなやかじゃないその名に負けてる姫踊り子草
岡谷 唯々野とみよ

短い眠りから覚める 目を閉じて二度寝の眠りのふりをするも
札幌 西沢賢造

寝れ親しんだ環境に不安がつのる 得体のしれぬ外菌で
境港 永井悦子

仕立てたままで箪笥に三十年 米寿に着よう 仕付けをほどく悦び
岡谷 堀内昭子

ならんだならんだチューリップ頭ゆらりゆら春風が優しくなでる
岡谷 伊藤久恵

春耕の音も賑やかに深い眠りから覚めた大地 いよいよ出番
岡谷 林朝子

気づかなかった電話・メール「会えないんだから電話ください」と
下諏訪 須賀まさ子

仰向くと水を讃えた桜花が今日も昨日も しずかに珈琲すする
富田林 木村安夜子

トントントンと朝の階段 ソレソレのかけ声と手すりにすがる夜
長野坂城 宮下久恵

今 午前五時 目覚める事が余り嬉しくないような気持ち
太田原 鈴木和雄

仮定された上空までの奥行きを永却見上げた 食卓に就いて
愛知 早良龍平

土のなか黄色い頭のふきのとうぽつりぽつり語り始める
下諏訪 光本恵子