いのち(未来山脈第384号より抜粋)

露見してもいいしどうでも構わない 鱈ときのこ二種のチーズ焼き
東京 金澤和剛

古い同窓会名簿を開くと校歌が聞こえる モノクロの時空を超えて
松山 三好春冥

大震災忘れぬように来る余震夜半の震度5身構える耳
一関 貝沼正子

震災十年経たドキュメント多くの死と生のままならぬ風景
札幌 西沢賢造

沈む月に火星が寄り添い大接近 この朝地球から使者が火星におりた
岡谷 三枝弓子

言った人忘れ言われし我覚えている 花はひとりで咲いて散る
木曽 古田鏡三

中村光夫のパリからエアメール モスクワからの絵葉書 今ここに
下諏訪 中西まさこ

カーテンの閉ざされた家にも背伸びの水仙が咲く 眺めるはわたし
下諏訪 藤森静代

忘れることが下手だから春の景色を引っ繰り返して見ただけさ
横浜 上平正一

諏訪の殿様は水城高島城を築き敵からの守りを固めた
岡谷 花岡カヲル

青空が見つめている 僕も青空を見つめている
つくば 辻倶歓

十年前の震災の日 電車は止まり娘は徒歩で深夜に帰る(東京)
原 泉ののか

ウグイスの啼く声を聞き目が覚める高原にもかけ足の春
原 桜井貴美代

雨後の霜柱逞しく成長 背伸びをしたり腕太になったり
原 太田則子

春が口の中にふんわりと入ったよ 今年も一番のりはふきのとう
原 森樹ひかる

気が付けば我も我もと一斉に場所取りをする雑草たち
原 北中ひとみ

マンネリの歌を戒しめ背もたれの椅子ゆすぶって見る八ヶ岳の峰々
岡谷 土橋妙子

飲むか呑まないか文字も決まらない 自分の背にせつかれ服す薬
千曲 中村征子

香り満ちて沈丁花 星のつぼみが私を見つめる雨の中
鳥取 小田みく

生きたいのか死にたいのかどっちかはっきりして長生きでいい
東京 久保田万作

颯爽と走る若人金の汗髪なびかせてハラリと飛ばす
仙台 狩野和紀

大きな蕗の薹摘み二人で旬を味わう幸せ
諏訪 宮坂きみゑ

ママは仕事を始めたのかと問う息子 僕は預かり保育は行きたくない
流山 佐倉玲奈

今日から「初めて」の連続が始まる 東京へ引っ越す息子の出発点
諏訪 大野良恵

土手のすみれにたんぽぽからすのえんどう 風に吹かれて居眠りしてる
京都 岸本和子

山陰随一の名城と称された米子城 切込接の石垣が歴史を語る
米子 角田次代

ひ孫の息子が二十歳の成人式を迎えた 目の前に現れたすらりとした身長
東京 保坂妙子

赤ムラサキ黄色と春の花の道を歩む 歌いながらルンルンと
米子 笹鹿啓子

眠る三男の手を握りしめるぷっくりと包み込めないほどの大きさ
諏訪 藤森あゆ美