素足(未来山脈第387号より抜粋)

薄もも色の夏のワンピースは刺繍入り ベンチに座る私は十歳
下諏訪 中西まさこ

風呂に入り新品のシャツに着替えたり 明日はコロナワクチン接種日
小浜 川嶋和雄

歌友に押し上げてもらって上りきる米子城跡 七十五歳のデビュー
米子 永井悦子

ウイルスめ ワクチン接種に殺到する群衆を見てせせら笑うか
さいたま 清水哲

一枚の葉っぱを切り抜いた動物たちの世界 それが葉っぱ切り絵
福山 杉原真理子

見学者一人限りの運動会 ネット観戦してくれとの味気無さ
大阪 山崎輝男

爽やかなカッコウの泣き声を聞き晴れ晴れ見上げる電線の上
岡谷 金森綾子

白き壁のごと咲き誇った梅花うつぎ 今年は花は無く
岡谷 三澤隆子

五月雨の最中当選のアルストロメリア 光差すように届く
岡谷 柴宮みさ子

山の畑の杏たち遅霜で全滅! 「一目百万本」で有名な産地へ買い出しに
坂城 宮原志津子

郭公よ どうして朝から晩まで泣き続ける 疲れないか
岡谷 横内静子

青梅がトタン屋根にコツンと落ちて梅仕事の始まりを告げる
岡谷 片倉嘉子

風にのり電車が音を運びくるスーパーあずさの旅すら夢の夢
下諏訪 藤森静代

坂道を妻のせ軋む車椅子やっとついたら「本日休診」
横浜 上平正一

仁と義を謳う戦国小説に没頭すれば我は旅人
仙台 狩野和紀

幸せを遠くに求め過ぎていたのかも 案外近くに在るのかもしれない幸せ
つくば 辻倶歓

日本で開催中のオリンピックは私もテレビで視聴するだけに
下諏訪 小島啓一

おそるべしコロナ菌 百年続いたわが店と料亭におそいかかる
鳥取 小田みく

打ち合わせ 商談だってオンライン 用件済めばすぐに退出
神奈川 別府直之

北朝鮮将官の上着全面べったりの勲章 理解に苦しむ彼らの美意識
大田原 鈴木和雄

血糖値の検査で始まり検査で終わる病床日記 笑顔で書きたい
米子 稲田寿子

血に染めてしまいましたね 気を取り戻して 元のようにします
東京 久保田万作

永遠に来ない電車 何者にもなれなかった者の街 私は駅長をしています
岡谷 今井菜々美

魔物が支配する妖怪地の伏魔殿 幼稚で変てこな暴力帝国 魔物は誰からも忘れられたが
山梨 岩下善啓

日々増えていく感染者 ワクチン接種をと言うけれど予約は止まったまま
流山 佐倉玲奈

リヤカー引いて緩やかな坂道を上るのが人生 休むのにも力が要る
群馬 堀口茂樹

夏草茂る丘いくさに潰えた画学生達の夢の欠片
熱海 石川とみ

気温が三十度を超えた日の十一階までの階段も迷うことなく登り始める
大阪 加藤邦昭

神風の子として生まれた俺たちは生まれた時から罪の子だった
北海道 吉田匡希

グラス落ち砕ける言葉拾い上げパズル合わせに日暮れも知らず
東京 木下海龍

耐えられぬ暑さの予感させる あと一週間で夏休み
横浜 大野みのり

家付き娘の私 養子に入ってくれた夫も亡くなりいま独り
茅野 平澤元子

三十年あっというまの三十年 振りかえる今 思う後悔
東京 上村茗

この暑さとオリンピックが終わるまでは静かに自粛生活の僕です
東京 天野敏光

親鳥は厳しく時に子鳶を突き放し 電柱のてっぺん ぴーひょうろろ
下諏訪 光本恵子