いのち(未来山脈2022年6月号より抜粋)

四月一日今日から十八歳は大人だよ 呼んでみる 孫住む町花曇り
愛知 川瀬すみ子

知らぬ間に蜘蛛の巣なんてできるもの冷蔵庫の裏わが心にも
一関 貝沼正子

ステイホームで久しぶりに会った友 元気な姿に元気をもらう
米子 角田次代

独裁者に一切を委ねきるロシアの民には責任はないのか
奈良 木下忠彦

森の木々春の日差しにあくびして百年の時間何もなかったように
富田林 木村安夜子

突然の眩に座りこむ ふかふか鋤きたての畑に
福知山 東山えい子

結露する窓をなぞりつつ通話するこのシチュエーションで恋人ではない
下諏訪 笠原真由美

傘寿祝 紫ずきんちゃんちゃんこ写真にうつり笑ってるわらってる
坂城 宮原志津子

三月十六日の福島県沖の地震3・11を彷彿させる程の物凄い揺れ
東京 赤穂正広

友がミモザの花が咲いたと大きな枝を沢山持ってきてくれた
米子 安田和子

届かない 何度も跳ねて諦めた女狐は言う「どうせ酸っぱいブドウよ」
下諏訪 中西まさこ

冬に咲く水仙風に煽られて 越前海岸大雪続く
小浜 川嶋和雄

暇な日がつづき長い夜が始まる 毎月日曜日はつらい
鳥取 小田みく

古い花びらが恥じらいながら夜更けの運河にながされてゆく
横浜 上平正一

新築の社房をも手玉に取る震度6強の思惑の果てしなさ三月十六日
仙台 狩野和紀

ゆっくりおうち時間を堪能 外の仕事はへらせへらせ
諏訪 宮坂夏枝

良き夫 良き父だったと言われ 報われた思い 又涙が出る
東京 上村茗

夢の数数え思い出せなくなった晴天あの日の扉に手を伸ばせ
岡谷 今井菜々美

予防接種 痩せた肩 衿ぐりから出せば「ま 可愛い」と看護師さん
諏訪 河西巳恵子

真ん中が深紅色の赤芽柳ぽあぽあ円らな瞳の幼な児弾んでる
岡谷 柴宮みさ子

くすむ花びら除けば鮮やかな代替わり 咲き誇る深紅のシクラメン
岡谷 金森綾子

折り目は破れ角は擦り切れ黄ばんでも大切にする全音の譜面
岡谷 片倉嘉子

凍土からスノードロップの芽 春一番を私に告げる
岡谷 横内静子

冬越し野菜は実家の丹精 筑前煮に今日人参の色ひときわ引き立つ
岡谷 三澤隆子

いよいよ始まる新生活 新一年生の息子と初出勤の私
流山 佐倉玲奈

山を降りた人降りなかった人の差は五分 運命は五分でも変わる
京都 毛利さち子