太陽はいま(未来山脈2022年7月号より抜粋)

春の嵐に門灯が点滅する 買い物メモの野暮用ひとつ増えて
松山 三好春冥

雨粒てとてとてとてと降って出たばかりの山菜の芽を潤している
京都 毛利さち子

わが生家 店先から蔵へトロッコ走る 和林檎の大木の下きっと脱輪
諏訪 河西巳恵子

痛みなく済みしワクチン疑えば夜にきっちり熱上げてくる
一関 貝沼正子

小学校では日華事変中学は大東亜戦争大学一年で終戦戦争の青春だ
大田原 鈴木和雄

五月の空に薄目を開ける木々 指さす向こうに“あべのハルカス”
富田林 木村安夜子

お久しぶりね 笑顔の再会二年四ヶ月ぶり息子家族がやってきた
坂城 宮原志津子

日々の暮らしは変わらず同じリズムで始まる妻と二人暮らしの朝
藤井寺 近山紘

八十歳 おめでとうはいらないと皆に言うが やはりめでたいのか
東京 上村茗

この凹みは外堀のなごりあそこの丘には二重櫓跡偲んで歩く楽しさ
箕輪 市川光男

小中高癌教育をとり入れる研修重ね命と向き合う
諏訪 伊藤泰夫

枕元の明かりで今夜も味わう極上ストレッチヨガの世界
諏訪 大野良恵

街路樹花水木赤いドレスの踊り子が天から舞いおりて咲く
飯田 中田多勢子

母校の校庭を見る八十路だよ さくら咲きます俺満開の中へ
小浜 川嶋和雄

地球一回りの食品売場 戦いなんてしてられない
千曲 中村征子

微力ながら復興に携わって七年体力に限界を感じ職を辞することに
東京 赤穂正広

やまと尼寺精進日記に出合ったのは二〇一七年秋 以来大ファンに
福山 杉原真理子

あなたの生まれた日の朝は窓にやわらかい小春日の光り
岡谷 征矢雅子

どんな寒い国から来るんだ水鳥たちここも一人じゃ寒い
埼玉 木村浩

諏訪に移り住んで三年 すっかり諏訪人になりきっている
諏訪 増田ときえ

羽毛布団だからといって軽くはないのだ私には健常の言葉喉奥に溜まる
大阪 高木邑子

長尾川枯川なるが梅雨なれば水の溢れて蘇り来る
静岡 鈴木那智

入院で伸ばしてしまった発行を悔いることなく重ねる推敲
青森 木村美映

ほてりたる互身を永遠に抱きたり乳がんの身を忘れて一夜
さいたま 清水哲

胸が少し軽くなった 肺の斬新な血止めの手術で
奈良 木下忠彦

今年の花は美しい白が愛おしい黙ってゆれて呼んでいる
木曽 古田鏡三