急行列車(未来山脈第340号より抜粋)

貨物船に憧れを積む水色のクレーン 私も吊り上げてくれないか
松山 三好春冥

森山直太朗はこの街をうたったか「どこもかしこも駐車場」
岡谷 唯々野とみよ

稗田神社のお堀のアカミミガメ 厚い水苔を背負って歴史を誇る
奈良 庄司雅昭

燃える炎に包まれるエアコンの外 ジョギングの台風がまた休んでる
千曲 中村征子

ガンは気力で克服するが口ぐせ 急転してお別れのとき
奈良 木下忠彦

元上司叙勲祝賀会前夜はてんやわんや 娘に借りた洋服スポッとはまって決まり
米子 大塚典子

とりとめのない夢のはずなのに朝の光にいとおしむような
札幌 西沢賢造

犬黄楊のはびこるままの君の墓ひとに頼んで丸坊主にする夏
愛知 川瀬すみ子

植え替える花菖蒲 手入れされなかった根が絡んでいる
飯田 中田多勢子

関空からアムステルダム経由で十六時間 エディンバラ空港につく
大阪 加藤邦昭

国連で核兵器禁止条約 被爆国なのに参加しないとは
諏訪 伊藤泰夫

遠くの街で戦い続け HP消耗 ルーラ!
下諏訪 中西まさこ

朝顔の前で羽ばたく紋白蝶 花蜜ほしいか動作はやまず
小浜 川嶋和雄

ブロッコリーは点描に最高の素材三本の細筆でリズミカルに
岡谷 土橋妙子

母が亡くなってから四十九日荒御魂新盆と喪中の法要数々おこなう
岡谷 武井美紀子

パーキンソン六輔と書かれた手紙も宝となったあの高笑いが懐かしい
箕輪 市川光男

小学1年生と六年生の孫二人 初めての二人旅姿を見るまでドキドキ
坂城 宮原志津子

前夜のオケ合わせ癒える間もなく 目覚めても緊張が有り余る
諏訪 大野良恵

野菜待つ客の声顔浮かべつつ山畑で一人畑耕す
福知山 東山えい子

日照不足の田んぼの稲穂 稲熱病の言葉重くのしかかる
群馬 剣持政幸

おいしくなれおいしくなれと待っている 完熟前に破裂してしまうスイカ
米子 稲田寿子

高山明様 ランドセルせなかにいえをでて国谷の分校にかけあしで
鹿沼 田村右品

まあるくなった机の角をなでながら歌に行き詰まった夜を思っている
横浜 上平正一

吹き抜ける風は梅雨の風ではない紫陽花はうなだれ雨を乞う
諏訪 百瀬町子

蝉しぐれ 七十二回目の原爆忌 広島・長崎への投下時刻に黙祷新たに
大阪 與島利彦

蝉の声植物園より朝の五時いよいよ夏本番裏の家より何度もくしゃみ
東京 及川かずえ

花咲けば花と語りて雨の夜は雨音数えひとり楽しむ
京都 岸本和子

鎧戸を漏れる光の水底で心静かにパソコンを打つ
大田原 鈴木和雄

体の中の海は満ちて引いて繰り返される永遠の波立ち
諏訪 藤森あゆ美

たくさんの茂みにたくさんの営みがあって髪切虫の羽のいろ鮮やか
京都 毛利さち子