流域(未来山脈第342号より抜粋)

麻痺の右足を引きずりながらも私は草を刈っている空が青い
箕輪 市川光男

濾すという語を漉すとする赤字あり ピュアを追い求める果てしなさ
東京 金澤和剛

障害の九歳の児が右ほおにチューしてくれる 子供みたいに楽しい
富田林 木村安夜子

この夏の最高気温と熱中症のニュースが飛び込んでくる午後
藤井寺 近山紘

泣く子をむりに乗せ自転車走らせる 周りの視線に泣きたいのは私
流山 佐倉玲奈

コツコツとヒールの音を響かせて夜のアスファルトに地割れを起こす
諏訪 藤森あゆ美

沙羅さんが彼岸花のような睫毛をつけだした 娘心はわかるけど
米子 大塚典子

蔵に晒し木綿が一反あった 学校の運針を思い布巾を縫う
諏訪 松澤久子

いつも俺の話をしてくれたと聞く友の心が伝わってくる
仙台 田草川利晃

谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」どことなく身につまされ懐かしい
下諏訪 須賀まさ子

僕血圧一三〇ですと訴える生徒 ご両親に話したの 父はいません
奈良 木下忠彦

こんな夢を見たという書き出しの漱石の夢十夜を読み疲れた
米子 笹鹿啓子

到着便のロビー、モデルのごと脚なびかせ中二の孫現る
愛知 川瀬すみ子

対バンの音源を聴くのが好きでして、メジャーの音には興味がないです
青森 木村美映

老猫を抱き息をたしかめる 頑張れ ギネスにのろう 今二十一歳
東京 上村茗

足が痛い腰が痛い 老は待ってくれない散歩に出よう
岡山 廣常ひでを

ありがとう! なんって気持ちのいい言葉 生きる力となることば
米子 角田次代

花が潰えた蓮池 大阪城を遠景に釣り人一人糸垂れている
大阪 山崎輝男

国立劇場で筝を演奏する 自分が観客でないのが不思議だった
諏訪 宮坂夏枝

もう絶滅種 インテリ文学青年も 山の手のお嬢様も
下諏訪 中西まさこ

未熟児大人の隷従思考では困りますよねお国の政治が
藤沢 篠原哲郎

自家栽培のナイヤガラ甘く香り彼岸の仏前に供える
諏訪 宮坂きみゑ

光点を見つめ数分手術は終わり説明受けてホテルに一泊
下諏訪 小島啓一

疎遠になって十五年 突然届いた友の便りにびっくりする
岡谷 佐藤静枝

彼岸も過ぎてすっかり秋めいて来て風も冷たく
諏訪 上條富子

等級名を木箱にしるした果実を貨車に積み込んだ駅 遠い若い日
豊丘 毛涯潤

楽しみは見つけだすもの創るもの夢を掲げて笹の葉が鳴る
一関 貝沼正子

草刈り機の君のあとをブロアで追う ホタルブクロがひとつ苅り残されている
長野 岩下元啓

浅草で歌会が開かれる 思い出と現実がない交ぜて上京を誘う
大阪 鈴木養子

新品種福井が生んだいちほまれ だれもが認める高級米だ
小浜 川嶋和雄

秋に成った 人生も秋 妻はショートステイ はぜの葉が赤い
大田原 鈴木和雄