いのち(未来山脈第376号より抜粋)

諏訪のうみ湖底に眠る縄文の狩人たちの声無き声を聞く

岡谷 三枝弓子

 

歌を詠もうか辺りを見まわす風も水もすべてが生きてくる

木曽 古田鏡三

 

あなた自身で窓を開けることもない海はガラスを透き通ってゆく

愛知 早良龍平

 

薩摩芋おいしいと言えば愛情入れた一本取ったと雅子さん

諏訪 河西巳恵子

 

小鳥の声に癒される朝心もスキップ空を見上げる

箕輪 市川光男

 

姉のように慕って四十年 土・日の茶飲み友その人はもう居ない

下諏訪 藤森静代

 

源氏物語の巻の名がせつない 触れれば落ちるか夕顔の花

千曲 中村征子

 

夫への気配りなし寂しさふっ切り行こう 未来山脈全国集会

福知山 東山えい子

 

高速道路が走らぬ吾妻谷を突き抜けて逃げ道を造り続ける

群馬 剣持政幸

 

今までに経験のない趣のある時間を頂く ファミサポの子供達より

伊那 金丸恵美子

 

筆力のはみ出し見事な絵手紙のつづきの“夢”を貰って会場を出る

岡谷 土橋妙子

 

今年も山の栗を拾って届けてくれたMさん 早速栗ご飯を炊く

飯田 中田多勢子

 

秋雨の滴したたる街路樹 菩薩のように立っている

大阪 木村安夜子

 

沈みゆく夕陽を追ってほころんで朝日にしぼむ瓢箪の白い花

岡谷 三澤隆子

 

気づいたら頬に涼風小顔の千日紅いつのまにぽふぽふ数を増やす

岡谷 柴宮みさ子

 

あっという間に一年が過ぎちらほら紅い桜葉目に染みる

岡谷 金森綾子

 

晴天の夏日に早朝から皮をひき祖母は瓢箪を仕上げた

岡谷 片倉嘉子

 

”茄子の花は千に一つの無駄もない”というが秋茄子食べたくてばっさり

岡谷 横内静子

 

この夏中そこにいたのねマムシグサ シダの葉枯れて頭を出した

下諏訪 中西まさこ

 

今夜は寒い布団のぬくもりは母のよう今日は彼岸の入り

米子 角田次代

 

思いがけない圧迫骨折に数センチの移動にも悲鳴がもれる

諏訪 増田ときえ

 

敬老の日 娘家族が里帰り 老父母の国勢調査をネット処理する

大阪 與島俊彦

 

コロナ禍にマスクする日々口紅を引かねば緩む口許かくす

一関 貝沼正子

 

地球を形成する数々の元素を生み出した宇宙の誕生

青谷 木村草弥

 

東京は怖いところだと聞いていたぬばたまの街に眠らない人々

北海道 古田匡希

 

屋根を打つ激しい雨音聞きながら佐渡への旅に心はずませる

原 桜井貴美代

 

そば畑白い花の向こうに北アルプス 雲を脇にかかえる

原 太田則子

 

小金の谷色を添えるコスモスの花 稲刈りをまつ

原 泉ののか

 

友人も家族も親戚も来ないいつもと違う夏がぼんやりと過ぎ去った

原 森樹ひかる

 

白い光を弾いてパラソルハンガーを開く 着古したTシャツばかり

松山 三好春冥