エッセイ

光本惠子のエッセイ

大船渡市赤崎の山火事

「あかさき」という町名に触れて

 

―――大船渡市の山林火災の影響で十八棟の住宅が全壊した赤崎町地区では、避難指示解除から一夜明けた三月十一日午前六時すぎに雲の隙間から朝日が昇りあたりを照らし出して・・・よかった、やっと鎮火した。
岩手県大船渡市の山火事がようやく鎮火した。 (さらに…)

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光本恵子の選ぶ歌

光本恵子の選ぶ歌

・ねばならない」が窮屈です 昨日も今日もまばたき止まらない
木村安夜子

・乗り越えなければならぬ壁が次から次とよくもまー
大塚典子

・五年ぶりの金沢 金沢は金沢だった 変わったのは私
岸本和子

・足が届かぬ鎖場で見知らぬ男性が差し伸べてくれた大きな手のひら
大内美智子

・四歳のお兄ちゃんの世話を焼き面倒を見る生まれてまだ三年なのに
宮坂夏枝

・古都デルファイ神殿あとの風にきく「汝自身を知れ、イリアスよ」
中西まさこ

・またどっかでねと言うた人期待せんと続きのコーヒー
芦田文代

・郵便受けにきみのことばが満ちる 柚子が描かれた絵ハガキ
中村宣之

・モダンな気品さの装い初の蝶浅葱斑 まさかの現実に目をみはる
三澤隆子

・師走の声を聞けば思いを馳せる愛隣地区の路上に暮らす男らの事
高木邑子

・或る愛にめざめし時より幸が運河の木屑とながれてゆく
上平正一

・重苦しい大気が少しずつ抜けて空が高くなったええ風や
三好春冥

・皆生温泉で同僚に再会した父 研修所教官時代の父を初めて知る
杉原真理子

・色づいた葉をカサコソと木枯しが運ぶ「おはよう」と今日が始まる
金丸恵美子

・刺すような木枯らしの冷たさにカラマツは音立てて降ってくる
征矢雅子

私はななんでもポイポイ捨てる妻が羨ましい 私はなんでも残すが役に立たない
加藤邦昭

・寒いねと甘えられては嬉しくて優しい気持ちコートの中で
今井和裕

・白い翼を翻弄される鳥になりアイスバーグは木枯らしのなか
笠原真由美

・落葉松林が沸騰して 北風小僧が金針を吹きこぼしてゆく
金井宏素

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現代歌人協会賞を受賞した足立公平『飛行絵本』

足立公平歌集「飛行絵本」

・自己につながる時間を切断する 泡だち崩れ異常な水の染まりよう

・経済の問題のため お前を否定しようとしたか、おれの血のつぶやき

・叫ぼうとしたか知れない おれの記憶のまだ目もあかない幼い日のように

(「異常な水」から)

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宮崎信義の最期

宮崎信義の絶筆

・いつまで生きていられるか手足を広げて日光浴だ

・生きるのも死ぬのももうお任せだ神さま仏様でお決めください

・生きていようが死んでいようがどちらでもよくなったよいお天気だ

・自然はすべてを引き受けてくれるそのままに何事もなかったように

・ふるさとの自然に還る ―― それが何より 生まれ育ったところなのだ

(未来山脈二〇〇九年一月号)

「未来山脈」代表であった宮崎信義が亡くなったのは二〇〇九年一月二日午後一時四十八分。食道癌のため自宅で炬燵の前で食事をしたまま逝去。九十六歳六か月の人生。

思えば宮崎は亡くなる前に第十二歌集『右手左手」を遺した。短歌研究社刊、平成十九年(二〇〇七年) 一月二十七日発行。

亡くなる二年前である。宮崎九十四歳の歌である。

・死を終点とするか過程とみるかそんなことどうでもよいか

・あとひと月で九十四になる一本の道だけが残っている

・うっふと笑ってみたまえ収穫どきの葡萄がおち

・もうどうなってもかまわぬとは思わない半歩でも一歩でも前に出たい

・五十五までは登り坂自信も大事それからがまた登り坂

最期のうた「煙」

・青い情脈が目立つ腕だ私の体どこから燃えだす

・杖は家に忘れてきたかこれからはあの世への道中になある

・炎が全身に廻ったその中でまだ顔だけが浮いて見える

・うすい煙が煙突から上がりだした私が焼かれている

(第十二歌集・右手左手)

 

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光本恵子の選ぶ歌 十一月号より

・猫じゃらしで少年が遊ぶ 心を救う詩の一つでも多い世の中であれ
街川二級

・柔道の阿部詩選手は不覚取る マット離れて泣く声は金
川嶋和雄

・朝早くから夕方まで学童で過ごす子供たち 手作り弁当で心を抱く
金丸恵美子

・暑いと床に転がっている事が多くなった飼い犬 俺も似てきた
酒本国武

・義父母の介護は六十代 米寿となり夫の介護に耐えているわたし
藤森静代

・ヨーロッパで生きる日本女性 日本は環境よりも目先のことばかりと
木下忠彦

・猛暑の中でぐんぐん伸びる畑の草私も欲しいそのエネルギー
佐藤靜枝

・猛暑の中で凛と立つ華奢な高砂ユリに思わず背筋が伸びる
角田次代

・小雨が降っては止んで 休日の雨の切れ間にサックス響く
片倉嘉子

・何の花ですかと鈴なりの鬼灯を見て若い職員嬉しいなこの感覚
高木邑子

・新盆見舞いに来てくれた従兄弟長いこと会わなかったら歳をとった
中田多勢子

・新しく移ったリハビリ病院 スタッフの笑い声ころころと響く
横内静子

・上物ですと時計屋が言う 三十年前に娘から貰った腕時計
三枝弓子

・雷鳴と共にタンゴのリズム奏でる葉加瀬太郎
桜井貴美代

・大輪の向日葵のぞきこむ 幾何学的に並ぶ小さな種
太田則子

・標高一五〇〇米の上高地 大正池から河童橋までの四キロをハイキング
安田和子

・理不尽は呑み込むのだと草笛光子さん 白髪が美しい
河西巳恵子

・素敵な靴を買いました一目惚れの布製の虹いろスニーカー
毛利さち子

・お悔みに身につけていた黒真珠ネックレス あれ 無い どこ
宮原志津子

 

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加藤克巳と宮崎信義

光本恵子

ここで少し加藤克巳について述べておく。

加藤克巳は宮崎信義の友人でもあった。加藤の歌は自在で、抽象的である。あるとき彼に話をきいた。戦前の一九一五年ごろ、彼は口語自由律の歌の雑誌をたくさん読んだので、いまもその影響があると、語っていた。加藤に私はずいぶん大事にされた。宮崎の弟子というので。よく一緒に酒も酌み交わした。克巳の出版する本は、悉く贈られてきた。近いうちにあの世に往くかもしれないと思ってからは、次々歌集をまとめた。 (さらに…)

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ソラヲトベ

ソラヲトベ

金井宏素

・東雲の空にオリオンが躍動して可愛いい冬がのぞいている 今日も酷暑

・雲の往来が忙しくなる 置去りにされる不安先頭に立つ恐怖

・暑い日は回りが静かになる 蝉も鳴きやむ午後二時

・人を殺し合うのが戦争だ その戦争にルールがあるという滑稽

・戦争を始める蛮勇と終わらせる勇気 日本の八月十五日 (さらに…)

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光本恵子の選ぶ歌(八月号より )

・トントンと胸の扉をノックする 愉しい言葉をさがして六月
木村安夜子

・この歳までを勝手に歩いた 行き先に道は無くとも山は聳える
古田鏡三

・お迎えのお母さんと風船もって公園に向かう子どもの後ろ姿に幸せ迫る
南村かおり

・あの席この席止まりゆき明るさ振りまき廻る私は車椅子の蝶
高木邑子

・梅のさっぱり漬けは我家の常備食 おにぎりに弁当に食欲をさそう
花岡カヲル

・外の香りが網戸を越えてあの店の香りだな今夜は外食
木村浩

・いやなことも苦しいこともいらっしゃい 逃げられないのが人生だから
木下忠彦

・ひとり居から三ヶ月 夫の特養老からの帰宅が迫り喜びと悲しみが
藤森静代

・文章講座の友この一年に三名が夫を亡くし全員未亡人になるとは
中田多勢子

・病を期に仕事半分とする自由人 全て脱会あとは新短歌のみ
小田みく

・パラ酵母の日本酒ローズマインド上品な花の香りの地酒が誕生
杉原真理子

・六月の夕暮れ捩花を君と愛でる 細やかに飲み乾すビールの美味さ
金丸恵美子

・一日の区切りの夕日が富士を真赤に燃やして沈んでゆく
上平正一

・いい香りリネンのシャツが干されてる白さをまして我をいざなう
木下海龍

・新婚四日目に遠洋航海へ 五ヶ月後の帰宅に妻はノイローゼ
山崎輝男

・令和六年 梅雨前線北上中 人類進化 公園に新種の紫陽花アート
與島利彦

・千曲の川辺 ニセアカシアの白い花びら舞いあそぶ初夏の訪れ
宮原志津子

・東西の名著が並ぶラウンジのみすず書房の書棚の脇にBARみすず(五月号から)
中西まさこ

・敗戦後 腹のふくれぬ雑誌を出す事で日本の文学を守り続けた人々
岩下善啓

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大阪七花会からの報告

大阪七花会からの報告

木村安夜子

大阪七花会は、毎月の最終土曜日の午後に開催しています。短歌が好きで、短歌を創作する人であれば、誰でも参加できます。未来山脈の会員でなくても参加できます。現在の参加者は、全員未来山脈の会員ですが、以前には、会員外の人も参加していたことがあります。大変オープンで開かれた歌会です。 (さらに…)

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私と写真

金井宏素

・チムチムニーチムチェリー 回りの景色から煙突が消えてゆく
・凍土を突き破り芍薬の紅い芽が伸びてきた 八十七回目の春
・霙の重さに耐えきれず百日紅の天蓋が悲鳴を上げて崩れ落ちた
・常念坊の雪形も辛夷の花も 黄沙に霞むいつもの春
・窓を開けると残雪輝く表銀座の稜線が飛び込んでくる爽やかな五月 (さらに…)

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