会員の作品

「未来山脈」の会員の作品です。

太陽はいま(未来山脈2025年1月号より抜粋)

一関 貝沼正子
・リズムよく庭の敷石打つ音か軒の雨垂れ時の源
・顔のないデジタル時計青白くホテルの壁に時をおし出す

福知山 東山えい子
・政治の無策や知らんと思ったけど お米ない? 人に頼られ心が痛む
・朝日新聞の隅っこに 米作り時給十円とあり でも田捨てられず

岡谷 三枝弓子
・八ヶ岳に向かう車窓から蝉時雨が酷暑に疲れた心にとびこむ
・庭隅にふっくらと茗荷こんなに取れたと誇らしげに言うだろう亡夫は

奈良 木下忠彦
・退職して新しい生き方を求める 人間の多様さ命の重さに気づく
・人生の苦からは逃れられはしない 苦を背負ったまま答えを探す

坂城 宮原志津子
・三年連用日記帳十五冊ずらり並ぶ本棚 数々の思い出終活の第一歩
・何着ものスーツ下がるクローゼットの中 今は不要の品と思い切る

諏訪 大野良惠
・コロナに感染した夫を隔離 そうだ浴衣をリメイクしよう
・引きこもりの夫に提供するべく食事を扉の前に置く

札幌 石井としえ
・歩行器で散歩の道の枠花壇ひまわりの背伸び楽しみにして
・カラス見て過ごした病室冬の日よ今日雁見てる歩行器散歩

原 桜井貴美
・道端にふと目をやれば曼珠沙華 残暑の日々に秋の気配
・十月に名残の蝉の声を聞くツクツクボォシツクツクボォシ

原 泉ののか
・どんどん山容かえる八ケ岳 特急あずさは走る
・ばあば二人に囲まれ孫は得意気 天までのぼる

原 太田則子
・葉の落ちる音ほおをなでる風のにおい あの暑さを忘れさせる
・冷水をグイと飲み干した夏 今はふうふう茶碗を両手で囲む

森樹ひかる
・中学生の合唱 ホール全体にはち切れんばかりの歌声響く
・力強い歌声未来へ向かう若いエネルギーが満ちている

藤井寺 近山紘

・同級生何年も会っていないのに小さな町医者でひょっこりと出会う
・クラブの先生の話題当時どことなく気に障っていたと苦笑いする

大阪 花菜菜菜
・あっキンモクセイの花あたらしい今朝の発見金木犀のかほり
・散髪のバリカン使いも介護の一つとなりて今度の日曜約束する

岡谷 佐藤靜枝一
・十月十三日両親の法事をする清々しい朝 八ヶ岳をあおぐ
・姉夫婦が健康であればこその父母法要の席 身を正して臨む

静岡 鈴木那智
・騒がしき轡虫の声は立ち退きて涼しき声の松虫が鳴く
・コスモスの咲く畑道を歩きなば一匹の蝶まとわり放れず

岡谷 征矢雅子
・暮れゆく高ボッチ ペールピンクの満月のはかなげに沈む
・夜更けて浮かぶ二十日のおぼろ月 微かに花の香りする

岡谷 横内静子
・最後の作業療法はみそ汁作り 豆腐にわかめと千切り葱を浮かす
・スタッフの昼食時に合わせ煮過ぎず暖かくと感謝を込める

岡谷 三澤隆子
・白色ピンクの秋明菊にホトトギス いちいの大木囲み風に踊る
・姉から株分け藤袴 わが狭庭にアサギマダラの気づくを待つ

下諏訪 長田惠子

・緑の葉の上で緑のカマキリが動かない 葉になろうと擬態努力中
・小春日和のベランダで居眠りのツバサ まったりの犬時間を過ごす

岡谷 片倉嘉子
・永井さんの歌を聴いて清々しい帰り道 高い空に風が吹く
・物干しぎおに雨粒がならび今にも落ちそうにぷるぷる震える

青森 木村美映
・魂を揺るがす如くAdoの「唱」 ひるむ背中を駆り立ててくる
・まずベースラインに耳を傾けよ 音楽だけの話じゃないぞ

下諏訪 藤森静代
・晩秋にふたりの友が天空へ旅立つ 涙にくれつつ思い出に浸る
・よき事の少ないこの頃 今宵の上弦の月のほほえみに友を偲ぶ

詳細

いのち(未来山脈2024年12月号より抜粋)

下諏訪 笠原真由美
この世にきてやっと半年すぎた凪を膝にのせてシューマンを弾く
ト長調そして次はへ長調 凪に聴かせる「こどもの情景」

岡谷 三枝弓子
田の畦を紅く染めて群れ咲く彼岸花 初めて見た奈良の旅
ヒマワリの花束とマスカットのケーキを持って孫娘祖父ちゃんもいたらという

埼玉 須藤ゆかり
お気に入りをそっと身につけ秋をゆく夏の波打ち際をなぞって
空はまだ夏を装おう風のなかの次の季節にまだ目を伏せて

坂城 宮原志津子
コロナ感染で五年間のブランク コーラス演奏会十一月三十日決定
メンバー二十七名~大切なこと音楽で伝えたい~テーマに練習かさねる

富田林 木村安夜子
いつもの座布団にゆったり眠る猫 昏れてゆく十月の空
夕暮れてゆく樹木の深い緑こうべを垂れる

横浜 酒本国武
五月の明るい光 本を片手に街を歩けば学生の頃を思い出す
空き地には河津桜の緋が溢れ時どきスマホで撮る人がいる

諏訪 河西巳恵子
猛暑生きのびる 鏡に向かい髪適宜に切れば私の出来上り
房総「濃溝の滝」の模写 ずっと額に飾られ秘かな自慢

横浜 上平正一
送り盆 線香だんだん細くなる山の奥で仏法僧が鳴いている
星も見えない空うれえをこめて雲を分けゆく今夜の羽田発七時五十分

飯田 中田多勢子
秋祭りの一番は大宮神社昼間は青天だったのに夕方からどしゃ降り
どしゃ降りの中でも神輿はきおう花火はバンバンバン大三国は中止

鳥取 小田みく

赤のかたまり ようやく咲いて 彼岸来たよと風にうたう
青木稲穂にすがりつく 真すぐに並ぶ ひがん花のおび

静岡 鈴木那智
紫のブドウ鮮やか撓みのる秋の味覚の旬は来たれる
鰯ぐも澄みきった空一面に緩る流れ行く心の安らぐ

大阪 花菜菜菜
鎌を持ち大地慈しみ五キロの米と一筆添えられ届いた
稲刈りのあとの田んぼにやれやれして足腰のため整骨院ゆくと

原 桜井貴美代
散歩の道中帽子をうっかり置き忘れ毎日捜す夫
「忘れ物です」とビニール袋に夫の帽子 角の家の垣根にそっと

原 太田則子
金色の稲穂をるコンバイン おこぼれ嬉しやカアカア
お彼岸におはぎを作る手仕事 小豆こんとこと餅米ふっくら

原 泉ののか
刺すような残暑の中で想いだす兄と遊んだ海辺の臭い
かわってゆく樹々の色ゆっくりゆっくり黄葉す

原 森樹ひかる
この夏ほったらかしの庭 草たちはみな自由に走り回る
草の中でひときわ輝く青い宝石 つゆくさの君と名づける

四條畷 高木邑子
懸賞金で賑わう土俵上イケメンの力士出世に大銀杏追いつかず
横綱不在でも活気溢れる土俵上客席にマスク顔もちらほらとなり

大阪 山崎輝男
臓器提供と書かれた免許証 事故死で散った甥の生命の短さよ
二十六歳で帰らぬ人となった甥 子供の頃の可愛さ目に浮かぶ

諏訪 宮坂夏枝
寒さも暑さも彼岸までは本当 朝の空気の清涼感あれほどの酷暑の後
断捨離トレーナー講習が終わりトレーナーインターンとなる

米子 大塚典子
入場行進する甲子園球児みて「男の孫が欲しい」とTVに語る
勝負はついても称えあっている高校球児 会話は私がつくる

大阪 加藤邦昭
七十四歳の誕生日の朝 カーテンを開ければ大阪環状線はもう動いている
妻は急用で昨夜から外泊 子供は東京 一人だけで迎える誕生日の朝

松山 三好春冥
父二十五回忌母三回忌 残暑の墓を清めに来ました
白い曼珠沙華の花ことば 恋愛でも情熱でも楽しみでもなく

詳細

素足(未来山脈2024年11月号より抜粋)

アラいけない明日の散歩では遅い 草刈り鎌の餌食になっているもち草の花
千曲 中村征子

地中海の満月は波間に漂い 魚がぴちぴち跳ねる光となり
さいたま 清水哲

ソックスが裏返しだと気づく午後みんみん蝉鳴く 今日は立秋
一関 貝沼正子

日本人第一号の金メダルは 女子柔道の角田選手だ
小浜 川嶋和雄

ハンドル握るカラマツ林を車で走る逞しい娘
原 桜井貴美代

大輪の向日葵のぞきこむ 幾何学的に並ぶ小さな種
原 太田則子

てっぺん大好きアキアカネ 稲穂にとまって澄まし顔
原 泉ののか

木の実ちゃんおはようごはん食べる犬に声がけの夫
原 森樹ひかる

はしゃぎ過ぎた後の鎮もり蒟蒻みたいにのっぺりした瞬間がくる
京都 毛利さち子

太陽系地球四十六億年前 球体は地核マグマ・マントル・プレート等
大阪 與島利彦

パキパキの青空は戻って来ないムシムシの猛暑日が 台風一過
愛知 川瀬すみ子

辛抱と我慢の違いを学ぶ説法 猛暑日に聞く忍耐と堪忍
松山 三好春冥

就活を兼ねた身辺整理のための断捨離なぜトレーナーを目指したか
諏訪 宮坂夏枝

俺が俺がと前に出て口を開けば嘘ばかり離れてわかる真実
仙台 狩野和紀

「中西さん、中西さん」と何度か呼ばれて はっ と目を開けた
下諏訪 中西まさこ

見守りましょう 大人が我慢するとき 越えられない壁はないという
流山 佐倉玲奈

窓から遠望できる針の木岳 緑の黒部ダムはその真下に光っていた
松本 金井宏素

「露の身ながら さりながら」永久にあれよと今を生きる
東京 木下海龍

成田空港から飛行時間十一時間四十五分のはずが十時間でアブダビ国際空港到着
松本 大野みのり

古い町の小さな寺 住宅街の中の涸れはてた庭
山梨 岩下善啓

年に五十回守屋山に通う父 ラクに登れるのは糖尿で痩せたからだと
諏訪 小坂泰夫

三年前に亡くなった夫の耕七と世界中旅した思い出に生きる
諏訪 宮坂きみゑ

敗戦時に生を得て七九年 米子の伯耆富士・大山から富士の見える街に住む
下諏訪 光本恵子

詳細

太陽はいま(未来山脈2024年10月号より抜粋)

朝ドラ見つつ朝食終えMC女子アナの笑顔に手を振ってみる
札幌 西沢賢造

横たえる体 無理やり起こしては客人迎える彼女の意志
諏訪 藤森あゆ美

亡夫の実家の墓仕舞いあずさから上越新幹線で新潟へ行く
岡谷 佐藤静枝

ふれあい音楽会 いまの会社の新しい仲間と楽しむ
湯河原 別府直之

おれ敦賀へ若狭街道自動車で 氣比神宮にお参りするよ
小浜 川嶋和雄

河原の草花一つひとつ名前を持って健気に生きている
京都 岸本和子

死ぬ死ぬ死ぬって私はいつ死ぬんだ主治医の顔をじっと見る
箕輪 市川光男

風邪をこじらせ十日間もダウン 明日は起きるぞ気合を入れろ
鳥取 小田みく

若者のはやり言葉をつかってみるが八十路前にはムズイ
米子 大塚典子

会いたいと言う行くと「わし生きとって良いんかのお」九十八歳兄
東山えい子

父なる神様助けてと縋りつ いきる我が主我が神 私は赤子
四條畷 高木邑子

今日のことは今日にしかない割ればほら卵は白身と黄身って呼ばれる
埼玉 須藤ゆかり

漫画のヒーローのようです 二塁ベースから手を振る大谷翔平
富田林 木村安夜子

早朝に飲む梅醤番茶で塩分補給 猛暑日予報に気を引き締める
福山 杉原真理子

掃除キッチンの整理に時給二六〇〇円 塩の美味しいケインズの町
横浜 大野みのり

量産型少女歩けば六月の雨はデジタルなマトリックス
青森 木村美映

青蛙そっと手の平に乗せたれば畏まり平伏をした侍
静岡 鈴木那智

ワシントン州の土壌で実ったチェリー 海を渡って私の手の平に彩る
伊那 金丸恵美子

押し寄せてくる人 人 人オーバーツーリズム わが町も疲れてる
愛知 川瀬すみ子

朝の迎えKさんの温かい手 いつの間に私がKさん曳いていて うふふ
諏訪 河西巳恵子

暑さをしのいで散歩にでると朝日がすでに瞼にまぶしい
茨城 南村かおり

梅雨の空気が太陽と雲をおしあげている 空の先には夏があるというに
甲賀 中村宜之

食事の片付けをしながら頭では次の食事のことを考える 夏休みのルーティーン
流山 佐倉玲奈

若き日に庭の如く遊んだ山 老いて感謝で遠望する
北九州 大内美智子

きのうは蝉の声きょうはきりぎりす酷暑にも秋の訪れが
下諏訪 藤森静代

わが住居の道側垣根 百日紅並木 夏休み子供等の花見マンション
大阪 與島利彦

今日の昼食は 毎回違う店に入るのが僕たちのルールだ
東京 下沢統馬

悪口は風が吹き消す夕間暮れギザギザの葉を伸ばすノアザミ
一関 貝沼正子

窓のないスタジオで口だけが動く 論より証拠の傘を持って行こう
松山 三好春冥

詳細

いのち(未来山脈2024年9月号より抜粋)

都合の悪い話は聞こえない振り不都合な言葉は切り捨てる術を覚える
藤井寺 近山紘

「聞いて!」と突然の病と入院を語る友 驚きと安堵が交錯する
米子 角田次代

新聞はチラシを見るだけ女房もクロスパズル欄だけ開く
横浜 酒本国武

往時を思い出して馬町界隈 下校時で歓声が上がる まぶしい
京都 岸本和子

憎しみと愛しみが交互に入れ変わる夜の深まりゆくあいだ
横浜 上平正一

なんでもない河原の草たち背が伸びて景色は夏模様われも半袖
愛知 川瀬すみ子

一生に一度きり使えない言葉をと河野裕子さん 切り抜きが見当たらない
諏訪 河西巳恵子

一つだけ良い事は悩みの種だった過体重 この度一・五キロの減少
米子 安田和子

金魚に上見横見が有るとは君だけ見えたらそれで良し
埼玉 木村浩

美容室の入口「髪を短く切って気持が良い」とK君が言う
岡谷 花岡カヲル

大涌谷に到着すると富士山が晴れやかに登場こころおどる
茨城 南村かおり

ブリキのおもちゃは懐かしい あとはモーター発光ダイオード
平塚 今井和裕

七月の風に樹々ゆれる おいでおいでと誘う昭和
富田林 木村安夜子

歌 チェンバロ ヴィオラダガンバ 教会中に澄んだ音広がる(小樂コンサート)
原 太田則子

四国へ四国へ夫任せの旅に出るハンドル握る夫を信じて
原 桜井貴美代

ぴょこぴょこ顔だす紅葉の花 赤いプロペラ大空みすえる
原 泉ののか

アルハンブラ グラナダ 次々と重厚なギターの調べが宿に流れる
原 森樹ひかる

誰もいないオフィスに挨拶をする朝 波紋のように声が広がる
甲賀 中村宣之

しまなみ海道を走り二十四年ぶりに訪れる平山郁夫美術館
福山 杉原真理子

狭庭で実った梅 二か月先が楽しみなシロップ漬けに
北九州 大内美智子

目分量で味付けした食事が終わる いつも何か足りないまま
松山 三好春冥

詳細

素足(未来山脈2024年8月号より抜粋)

早採りのワカメのしゃぶしゃぶ生日に海の緑の元気をいただく
一関 貝沼正子

久しく夜の街に出掛ける事もないドアの向こう溶け込めない暗闇
藤井寺 近山紘

レジ待ちに一輪のカーネーションを持っている男子生徒にホッコリ
米子 安田和子

皆は湖周の花見に 私独り部屋から桜吹雪見て持て余す時間
諏訪 河西巳恵子

未婚かつ子なしの僕も読み聞かせ・おかいつソングのライブに出ます
青森 木村美映

給わりし喜び数え幸せ思う朝心病み苦しむ吾子に涙しつも
四条畷 高木邑子

文章講座の冊子「くらしの中から」が四十一号に「きくの会」は二十五期生
飯田 中田多勢子

「美味しいごはんありがとうございます」婿のこの一言にいやされる
諏訪 宮坂夏枝

病を期に仕事半分とする自由人 全て脱会のあとは新短歌のみ
鳥取 小田みく

この船路 皆で渡ろう道を追い 高度に進歩 カッコイイ列島
平塚 今井和裕

午後三時の多摩川沿い 桜の木陰で横になる すっと肌に当たる風が時間を忘れて
東京 下沢統馬

野山の縁冴え渡り書棚に増えゆく珠玉の歌集
福山 杉原真理子

大丸デパート五階のカフェにて「先生、もう三十年生きてね」プロポーズ!?
さいたま 清水哲

梅雨に夢見る雪のようだ久しぶりの恋は 涼しく冷たく全てが光る
埼玉 街川二級

便りがないのは元気な証拠とは言えず真心だけは忘れないで
仙台 狩野和紀

駐車場ぐるぐる回って下って見える駐車のミニカー
千葉 石井義雄

ふり返ればヨーロッパがユーロになる前に各国の旅をした夫と私
諏訪 宮坂きみゑ

戦争の話を聴かせてください 必ず後の世に伝えますから
山梨 岩下善啓

親切は呪いのひとつ微笑みは威嚇のひとつ愉しやわが世
北海道 吉田匡

紫紺和紙五角形の紙風船が破裂して 桔梗咲く文月の始まり
松本 金井宏素

「夕鶴」を語る現状の子供達に如何に映るのか 日本の美しい昔ばなし
伊那 金丸恵美子

また増えた植木鉢 カーテンを開け水やりするのが朝のルーティーン
流山 佐倉玲奈

梅雨晴れの間洗濯機は小気味よいシャツは香り乾いているよ
東京 木下海龍

紙上の名は故里のあの人かあの人が未来山脈の活字が引っぱるもの
近江八幡 芦田文代

京都高瀬川の鷺が諏訪湖の鳥と同じ目を 戻ってきた君
下諏訪 光本恵子

詳細

太陽はいま(未来山脈2024年7月号より抜粋)

のど自慢大会でマイクに向かっておかあさんありがとうと全盲の人
奈良 木下忠彦

春が来た 空の色が弾んでる 楽しいことひとつでも見つけられそう
京都 岸本和子

小さな家が建ち大きな家が街から消える角の肉屋も売物件と
岡谷 三枝弓子

いい時もそうでない時も温かく人を迎えて咲く桜
諏訪 大野良恵

塩原温泉病院では再起のためリハビリに励んだ
大田原 鈴木和雄

嫌うからきらわれるのか嫌われるからきらうのか 春の曇天
甲賀 中村宜之

新婚さんが桜花を背にポーズ 五十年前初デートのときめき蘇る
大阪 山崎輝男

晩春のタリーズで飲むハニーラテ蜜入れるだけで苦みは生きる
埼玉 須藤ゆかり

人が滅べば紙も仏も消える 宇宙も在りつづけるのかな?
山梨 岩下善敬

桜満開 家族も安泰 孫の手を引き幸せ桜
北九州 大内美智子

予約してひたすら検査や診察を待つ大病院のフロア通院は体力勝負
京都 毛利さち子

閏年 得した気分も日記に特記するものもなく更けてゆく
米子 大塚典子

体調を崩している私には春は目映い 都忘れの花が咲き出した
伊那 金丸恵美子

何処から種とんで来しか菜の花のきいろ鮮やかに群れ満開に
静岡 鈴木那智

五月晴れに行き交う飛行機雲 絵画のような直線が三本さわやかに
下諏訪 藤森静代

田んぼの畔が通学路だった れんげ草の花束をもらったことも
松山 三好春冥

一枚のチケットのもぎり半分夢の続きの映像が見える
藤井寺 近山紘

前ばかり見ていられないとつぶやけば俺も同じと頷かれた夜
諏訪 藤森あゆ美

今年も母の日 結婚している娘たちからプレゼント届く妻感謝の電話
大阪 與島利彦

伝書鳩は数千キロを命かけて家目指す山鳩は自ら餌を探して生きる
下諏訪 長田恵子

降りやまぬ大粒の雨にうんざりするが春の雨は大事
岡谷 片倉嘉子

会う事も叶わなくなってきて兄姉の顔を見てホッとする春の墓参
岡谷 横内静子

庭すみに競り合う緑は浅葱 野萱草 浅き春をわが食卓に
岡谷 三澤隆子

広がる新緑の中に山桜が交じっている 大和魂という言葉があった
松本 金井宏素

新緑は眩しく 散り際も美しかった桜も別に散りたかったわけでは
横浜 街川二級

ホームの温もりの中にいる我に届く老人虐待の声辛し
四条畷 高木邑子

教えてと百姓見習い息子の頼りない婆さん 先生
福知山 東山えい子

満開の桜はカエルの卵が枝にひしめいているようだ
横浜 酒本国武

また一人増えた私の主治医今度は若い女医さんだ
箕輪 市川光男

もう八重の咲く時期なのに雨の日は昼まで蒲団をかぶっています
青森 木村美映

詳細

いのち(未来山脈2024年6月号より抜粋)

桜咲きだす暖かさのなか病院へ急ぐバイパス通ればこんなに近い
京都 毛利さち子

佐保姫様 能登で金沢で京都でもおだやかな春を待っています
京都 岸本和子

戦前の子ら皆よく働いた 戦後植樹の杉の花房吹雪に乗って一挙里へ
諏訪 河西巳恵子

春の淡雪が降った朝自治会長が子どもを連れ両隣三軒分の雪かきに
飯田 中田多勢子

車いすで礼拝に連れてこられし友は薄物の夏服で現れる二月極寒に
四條畷 高木邑子

そよ風なのか心のそよぎか 柔らかく背を押され一歩踏みだす
岡谷 征矢雅子

春休みに集まった日曜学校の子どもたち お泊りリトリートに嬉しそう
茨城 南村かおり

女房の友達がきてもう四時間かそろそろ帰れ犬の散歩だ
横浜 酒本国武

都会にいる子供から墓じまいをするように言われたという友
米子 安田和子

何気なく抱えた 肩先ほんのりと匂袋がはなをくすぐる
横浜 上平正一

男はつらいよロケ駅でスマホ構える娘にマドンナピース
米子 大塚典子

孫のひな人形を飾れる嬉しさ私の子供は男ばっかし
箕輪 市川光男

温泉街をぬけて実家へと向かう道 幼なじみの家々過ぎて
下諏訪 笠原真由美

歴史を現在に戻す 妻のビザ取得で夫婦で北欧旅行ができる 神に感謝
大阪 加藤邦昭

朝陽浴び窓から水仙を眺める 今日いちにちを励ますかのように
下諏訪 藤森静代

〇息子が蒔いたひまわり畑 遠く車の人にも手を振っている
大阪 與島利彦

中学生になった娘 真新しい制服に包まれ自転車をこぐ
流山 佐倉玲奈

涙雨 四十九日の納骨に静かに想う生前の父の姿を
鳥取 小田みく

七時間半のフライト 東シナ海を飛び越え シンガポールに一直線
東京 下沢統馬

雪に萎れた母の形見のカネノナルキ 彼岸の雨によみがえる
松山 三好春冥

詳細

素足(未来山脈2024年5月号より抜粋)

北国の闇夜は吹雪の乱舞…まるで狂える悪魔の狂詩曲
横浜 上平正一

葉を落とし素となるままのナツヅタの今年の伸びを張りつける壁
一関 貝沼正子

骨すでに脆く わずかな衝撃に胸椎圧迫骨折 噛みつく痛さ
諏訪 河西巳恵子

雛飾りのニュースを見ると思い出すひな祭りのうたの遠い日のこと
諏訪 増田ときえ

暗闇に静電気の炎立つ アクリル毛布との戦い
諏訪 大野良恵

明けの青い死の匂いうっすらと生に押し出すあかね空
岡谷 征矢雅子

パカパカッと両目外して水道水でジャージャーそれが一番 花粉症
名古屋 川瀬すみ子

陽ざしない玄関が華やぐ 米寿祝い息子夫婦から花束プレゼント
下諏訪 藤森静代

ちぐはぐな季節の巡りでとまどえばことばがとけて大地をぬらす
甲賀 中村宜之

暖かくなったと思えば突然雪が降ったりと不安定な春です
流山 佐倉玲奈

何年も勉強している囲碁の奥深さは麻雀と同等の位置づけ
仙台 狩野和紀

雪解けの音ちょろちょろ リズム奏でるひととき聞き惚れる
岡谷 花岡カヲル

二階にボールの音が聞こえてくる 夜明けの子犬の遊び
横浜 酒本国武

なんとなく春の匂いのするひとだ古木の咲かす桜を思う
埼玉 須藤ゆかり

春泥は春の前触れ 磨いた靴の踏み場思案しながら歩む
松本 金井宏素

木の芽時に散歩は楽しいと言う君にゆっくりうなずく
埼玉 木村浩

八十路を前にした仲間はみんな元気で集まることができてと笑顔
米子 稲田寿子

窓の外は灰色の空 冷たく吹く風 ひざかけでほっこりの母の幸せ
米子 三好瞳

春告鳥の産声混じりのさえずりを聞く 更地になった墓地多し
境港 永井悦子

突然の窓打つ雨に父想う 入院中のあわれな姿が目に浮かぶ
鳥取 小田みく

被災地は日に日に増える復興の終わった場所は聞かないけれど
青森 木村美映

オーストラリアへワーホリに行きます まずケアンズから
東京 大野みのり

指先が奏でる文字をデジタルに乗せた延長線上には闇
諏訪 藤森あゆ美

風をつかみパラグライダーに乗ってミュンヘンの山 ドイツ青年と君
下諏訪 光本恵子

詳細

いのち(未来山脈2024年4月号より抜粋)

季節はずれの高原は寂しい全部の空気全部吸って私は私
岡谷 三枝弓子

能登半島が怒っている 金沢中心の世間の評価に
京都 岸本和子

大阪名所 淀川上空の中秋名月 老妻とアベック鑑賞・至福
大阪 與島利彦

秋分の日 境にやっと秋の気配ウォーキングを再開する
福山 杉原真理子

何かしら心に思うことあれば人みな空を見上げて祈る
札幌 石井としえ

夏休み終盤家族に襲いかかる体調不良も子どもはあっという間に回復
流山 佐倉玲奈

岡崎城の脇の龍城神社はパワースポット若者たちが列をなす
岡谷 征矢雅子

最低賃金のパートで粘る私を苦しめる値上げラッシュ
諏訪 大野良恵

未来山脈誌の表紙絵はかつては旅館街ゆかた姿の湯田坂の面影
下諏訪 藤森静代

去年の秋バッサリ切られたさるすべり 新たな花房まばゆい深紅
岡谷 三澤隆子

バッハの曲はテェンバロが似合う 時空を超えてバロックの世界
下諏訪 長田恵子

アコギの音が脳を潤していく 鳴り続けよ満ち足りるまで
丘や片倉嘉子

こおろぎが激しく鳴くように私も寒くなる季節を待っている
岡谷 横内静子

ずっと微笑んでいる彼女の写真 その美しい人柄がまわりを清める
茨城 南村かおり

実家の曽孫ななちゃんはみんなのアイドルかわいい女の子
米子 稲田寿子

君の夢心地よく見ていた処せっかくだったのに目が覚めていた
平塚 今井和裕

マグリットの青い空 不思議な形をして浮かんでいる白い雲
横浜 酒本国武

退院決まり心はしゃぐ いや 誰とも逢いたくない自分もいる
鳥取 小田みく

うすい朱で沈む西日は老う俺だ 青年の色雲まで燃える
小浜 川嶋和雄

ふり返ればヨーロッパがユーロになる前に各国に旅をした
諏訪 宮坂きみゑ

ドッジボールの汗乾かぬまま墨を擦る 息整わず字が躍る
神奈川 別府直之

布切を引き裂いたような輝いた雲がでている十月の秋ぞら
静岡 鈴木那智

日本では海の中に母が居て フランスは母の中に海が在る
山梨 岩下善啓

在米日系三世の女性は日本語を話せない 母親が教えなかったと言う
大阪 加藤邦昭

老いは悲観を増長させる 悲観には強面の強いまなざしで
奈良 木下忠彦

詳細

次ページへ »