流域(未来山脈第353号より抜粋)

文言が悪いから役場へ電話、それが地元で問題化、我れは正しい
木曽 古田鏡三

夕食後興がのると戦争話をした舅 同じ話も初めて聴くふり娘と私
米子 大塚典子

AIは情報を処理し人間は情報から考える さあ、どっちが偉い
京都 岸本和子

草刈機の音が響く朝 どこまでもどこまでも青空はひろがる
原 泉ののか

赤トンボ飛ぶのは早い八月だ 秋来たのかな稲田で見ている
小浜 川嶋和雄

母に会えた気がしたご詠歌響く中施餓鬼会法要の本堂で
辰野 里中沙衣

大雪から始まった平成三十年ありとあらゆる災害が続き 心が痛む
米子 笹鹿啓子

七月二十六日は幽霊の日 逢えるかなあ逢えるといいな
岡谷 唯々野とみよ

亡き母の宝石箱をあけたら突然オルゴールが鳴る「いい日旅立ち」
諏訪 宮坂夏枝

わが国で 二度目の夏季五輪 開催まで一年余 夢と不安重なる
大阪 與島利彦

暑い日本では関西は大雨、土砂災害 北の北海道は地震に揺れる
諏訪 上條富子

八月末 孫娘が大阪から初めて一人で帰ってくるという
米子 安田和子

金木犀の香はこの家だ! 優しげな佇まいに黒いざわめきは鎮まる
下諏訪 須賀まさ子

大きな株になったカラスムギ 生きることだけで貴いのだと
つくば 辻倶歓

お盆に秋雨前線 雨が涼しさつれてやって来た やっと一息し農婦は種まきに精を出す
岡谷 林朝子

晒し巻いて太鼓に向かう少年の気迫切り裂く夜のしじまを
神戸 粟島遥

樹音ちゃん およめさまにいってもきれいなすがたをみせておくれ
鹿沼 田村右品

認知症気味の私の知人が友の死を知り涙をうかべ悲しむ
米子 稲田寿子

御射鹿池の色はスカイブルーに輝く東山魁夷の絵のように波静か
岡谷 武田幸子

もうかかることのない貴女からの電話 赤いハイビスカスを飾る
岡谷 金森綾子

糖度センサーをくぐって来たか 到来の桃はすべて甘くてはずれなし
岡谷 片倉嘉子

円すいに切りいるスイカよく冷え眠気もさめる活力パワー
諏訪 伊藤泰夫

ドラマのように有難うと告げ逝った友ボールまでも優等生
北九州 大内美智子

度重なる慰留を拒み議案書に「専務補充」の一文を書く
木村美映

お天気のように変わりやすい思春期の長女ただ見守るだけ
諏訪 浅野紀子

お~いと声かけられるほど近くにいる君に声もかけられず
仙台 田草川利晃

座して聞く殺人犯に添削し短歌を導く光本恵子に会う
青森 北村道子

プレスセンターから見る月は皇居を照らし昭和が揺れる影を映す
埼玉 横田哲治

今日は八月十三日 盆前の忙しい日に高校野球を見ている幸せ
琴浦 大谷陽子

公園の雑草にまじり芒の穂ひぐれの風にワルツを踊っている
横浜 上平正一

週末をもて遊ぶのか台風二十五号 公民館まつり悩ます
境港 永井悦子

父よあなたの知らない八十路を生きます平成最後の慰霊祭
諏訪 関アツ子