短歌の発酵を待つ

9月号のために十首歌を作らなければならない。ああどうしよう。
まず8月号の短歌雑誌を受け取った時、パラパラと雑誌をめくってみる。ああこんな歌もあるなあ。これなら私にだって作れそう。その歌を書き留めてみる。真似は「まなぶ」の始まり。
散歩に出かける。石ころに当たって転びそうになる。転んだ顔の先にコンクリ―トの隙間から名も知らぬ小さな黄色の花が咲いている。こんなところでも生きよう、咲こうと首を伸ばしている花の芽に驚く。転んでもただでは起きない。あの家の前にはバラの花の根元で犬が吠えていた。帰宅するとそのことを紙に書きとめる。これが歌作りの一歩である。
新聞を読む。どこを見てもコロナのことばかり。おかげで自宅にじっとしている日が続く。気に入った記事をその辺の散らばる広告の裏紙に書き写す。
外は雨。雨の色、雨の音、雨の激しさ、雨にもいろんな表情がある。雨の音を聞いていると、中学生のころ、おばさんが私のために傘を持って校門のところにずって佇んで待っていた姿を思い出す。忙しい母であったから、近所のおばさんに面倒を見てもらった私。雨とともに思い出す。
思い出も書いて紙にはたくさんの言葉が書きつらねられた、様々な表情をしてことばたちが短歌にしてよと言っている。ああ面倒だが、いよいよ短歌を作るか。だらだらでもいい。まず紙面に書いてみよう。短歌らしき言葉を寝かせる。いよいよ締め切りも近い。今まで書き留めたものを30字前後の音数でまとめる。
ちょうど白菜漬けの食べ時のように、言葉も寝かせて、歌にしてよとぶつぶつ発酵している。
短歌として再確認する。
テーマは一つ。あれもこれも一首の中に詰め込むと歌いたい主題が見えなくなる。
10回ほど声に出して読みあげる。リズムを整える。28音から36音に収まっているか。

8月の歌から短歌をみる。
・美しく音たてて咲く花は耳をすませば宵待草ポン鳳仙花パン (毛涯 潤)
・処分を決算したが思い出を引きずる品物がまた少しずつ残っていく (近山 紘)
・どくだみの花が咲く地味だが根を張りめぐらしたくましく生きている 私は? (上村 茗)