連作の効用
- 2021年3月1日
- エッセイ
連作の効用
ひとつのテーマで十作作ってみる、 なにか物事 ははっきり見えてくるではないか。 このような短歌の作り方を連作という。 花を見ても鳥に接しても、一首で思いを盛り込もうとすると、あれも入れたい是も入れたいと、何を歌おうとしているのかわからない。具沢山の吸い物のように、何が何だかわからない味になってしまう。いま目にしている写生を十枚の絵に描いてみるように、 丁寧に一首ずつ短歌に詠んでみる。 さてどうなるか。一首一首が引き締まった作品の上、さらに十首を詠み終えた時の満足感はなかなかいいものだ。 鳥の飛ぶ姿、花の可憐でそれでいてしっとり咲く花のちから。初めて、対象があぶり出されてくるのではないか。
風景ばかりではなく、対象が「人聞」についても連作の効用は大きい。次に人問、宮崎を詠んだ作を記す。
「宮崎信義短歌作品集」を読む。
・口語自由律貫いて六十年 信義の年譜辿って粘りに唖然
・たじろがぬ一筋の思いへの原動力は何であったたか帯締め直して信義に向かう
・速度はスロー球は直球 技巧も変化球もなくでこぼこ道を踏み越えてきた
・顔に意志の人と描いてある 見つめていても厭がこない
・横から見ると長方形か菱形か いい頭の恰好やなあ宮崎先生
・ぎようさんのおなぎごさんにもてたやろけど自分の道は忘れんかった
・月ごとの歌誌編む根気を一年続け十年経て四十年が過ぎていった
・狭い廊下はきしみ汲み取り卜イレはそのままの古家屋に平然と住んでいる
・奢りもせず退きもせず淡々と歌を詠 川の水は今日も流れる
・モダニズムからリアリズムへ背筋を伸ばして口語自由律の歴史を創る
(光本恵子歌集 『素足』 から)