シュール短歌
- 2021年11月1日
- エッセイ
具象的な短歌ばかりではなく、抽象的で胸の内、心のうち、脳のうちを言葉にしてみると、こうなった。そんなシュールな短歌があっていい。却って心の内をよりよく表現できるときもあり、時間の経過に関係なく、普遍性のある歌になっている場合もある。詩心が深まり、多くの人の共感を促すこともあれば、「何を言わんとしているのか意味不明」として捨てられる場合もある。
ちなみに、シュールとは本来、フランス語のシュルレアリスムの略語で「超現実主義」という意味。一九二〇年代にフランスで興った前衛芸術運動の名前である。
次にシュールな歌を挙げてみることにする。
・眠りはじめた石を起こす 光をあてると海の部分が卓上に晒される
(宮崎信義『急行列車』)
・何ひとつ隠せぬクラゲの透明な体の中から漏れる毒
(藤森あゆ美『美しい水たちクラゲよ』)
・マーラーの交響曲がうごめいて太古の森で巨人が目を覚ます
(笠原真由美『幻想家族』)
・ツーと尾をひいて いづこの星座物語生まれるや 飛ぶ石のそこで消えた
(足立公平『飛行絵本』)
・雨風もひれ伏す窓辺 ノートにはめくってもめくっても猫の絵
(金澤和剛「未来山脈」八月号)
・君がいない孤独の中に気体から個体に戻る冷たさは夜
(吉田匡希「未来山脈」八月号)
・夜も更けて蚊やりも尽きてただ独り気配を殺せその尾を掴め
(木下海龍「未来山脈」九月号)
・いずれ来る死への道に愛の種を落とすのだとコスモスはほつり語った
(光本恵子『薄氷』)