素足(未来山脈2022年2月号より抜粋)

長男は最新の医学をと東京で開業させた俺のような田舎医者ではなく
大田原 鈴木和雄

待ち遠しかった冬至が過ぎて日が長くなる 単位は古来より米一粒
松本 金井宏素

冬陽にラベンダーの銀葉が輝く 松の葉をたくさん食べて眠るムーミンたち
下諏訪 笠原真由美

水野昌雄先生にこれから君たちの時代だと言われたのは二十一年前
箕輪 市川光男

夕暮れに飲み込まれるまでの葉っぱたち 紅葉の朱空にひろがる
富田林 木村安夜子

かけられない電話は貯まるばかり 時間の渦に消える無念の情
千曲 中村征子

どんな悩みももてなしてくれそうなハンモックがしっとり垂れる部屋
諏訪 大野良恵

秋晴れのキャンパスに浮かびくる「紅葉」は小学唱歌
諏訪 増田ときえ

まさかの娘の入院 朝保健センターに電話し夕方現実となった
諏訪 宮坂夏枝

規則正しい生活の中で待ったをかけるもう一人の自分
仙台 狩野和紀

二年ぶりのピアノの発表会 園年長の息子にとっては初舞台
流山 佐倉玲奈

八ヶ岳の美しい稜線 の山は日増しに紅葉し秋を装う
岡谷 花岡カヲル

近所の犬のモコ通るたびうれしくてキャンキャン吠える
諏訪 宮坂きみゑ

たっぷりの大地 日光 水 空気 そして愛情 新鮮野菜
神奈川 別府直之

初めての流れ星 願い事まにあわずあわてて手を合わす
鳥取 小田みく

ハウルの骸から現れたムクロは姿を変えて楓となり焔となって蘇える
下諏訪 岩下善啓

九十六歳の恩師を囲む食事会 穏やかな面に長寿の秘訣みる
大阪 山﨑輝男

植えた朝がお生えた朝がお軒下で今日も空を見ている
木曽 古田鏡三

後期高齢者にと勇んでみるが先が見えないコロナの行く末
米子 永井悦子

睦月に冴えわたる中天にブルーに包まれた生絹の月は一筆の描写
岡谷 土橋妙子

買い物に出かける時間に重くなり地平線へと溜まる薄雲
愛知 早良龍平

侘助や星降る庭に白々と可愛いチャペルを愛しみて立つ
東京 木下海龍

新月の見えない光 夜想曲(ノクターン)を人類有史全ての死者へ
北海道 吉田匡希

白い雪に注ぐ日の光と青く澄みわたる空 冠雪大山もあざやか
米子 笹鹿啓子

カサカサと音立て歩く枯れ葉道 重なり重なり重なっている
諏訪 藤森あゆ美

冴えわたる星が湖に降ってきそうな夜 宇宙の一角に吐息する私
下諏訪 光本恵子