老いの歌

平等に人は老いてゆく

永田和宏の次の歌に出会い嬉しくなってしまった。

・花ふぶくなかに半日本を読むこの贅沢を老いてこそ知る
・これしきのことと思へるこれしきがかくもうれしくわれ老いにけり

(短歌研究2021年6月号)

私は学生時代、永田和宏とともに京都河原町の飲み屋街や喫茶で語った同世代である。あれからもう五十年以上も時は経った。
同世代なのに、どうして、永田ばかり、今なお、つぎつぎに本を出して元気なんだと、思ってみていた。
ところが、彼も「われ老いにけり」などの短歌を読むようになったかと納得した次第。
共に行動した当時の仲間も鬼籍に入ってしまった人も多い。河野裕子、安森敏隆、川口絃明、西尾昭男など。老いは老いでそんな歌を素直に読むもいいじゃないか。老いの年齢まで生き抜いた結果である。

老いの歌を未来山脈の2022年3月号より抽出する。

・手を叱り足をいたわり動いて生きて老いに立ち向かう

(古田鏡三)

・モノを捨ててしまえばひとつずつ過去から私が離れてゆく

(大野良恵)

・年賀状の宛名書きは孫にたのんだ 今年限りと添え書きをして

(中田多勢子)

・暮とお正月のご馳走を一緒に出す 心地よい孫たちの歓声

(宮坂夏枝)

・一人で迎える二度目の正月 カセットテープから亡夫の朗吟を聞く

(佐藤静枝)

・カノラの大ホールで「追分けの」自作の短歌を思いきり一人で吟じる

(花岡カヲル)

・大型スーパー「ホープタウン」の火が消えるこの店で子育てもした

(永井悦子)