いのち(未来山脈2022年9月号より抜粋)

エアコンの「おまかせ」機能の不快 私の体感温度を知らないで
松山 三好春冥

丘の庭にバラは咲満ち鳥がくる 憂うことなき家にも見えて
下諏訪 笠原真由美

駄々こねて咲く向日葵が プランターの中でワイワイ楽しい
富田林 木村安夜子

定年の挨拶状とともに元気になれと黒にんにくをくれる後輩
奈良 木下忠彦

娘に誘われ日曜日の早朝 梅を求めてJAの夢マートへ行く
岡谷 花岡カヲル

三輪揃って首をそり上げ花開いたクジャクサボテン猛暑日の夜
鳥取 角田次代

仕事のストレスと倦怠感 そうだ今日家を出よう
諏訪 宮坂夏枝

峠のトンネルを抜けると白樺林広がる平原ここは私の癒しの場
箕輪 市川光男

“ああ野麦峠”政井みねの墓まいりに飛騨市河合町角川専勝寺へ赴く
岡谷 横内静子

アカシアの花房しだれる道端に仲良し道祖神ぬくもりの風
岡谷 三澤隆子

「最後まで耐えるもの救われるべし」嗚呼しかしマリウポリ陥落
岡谷 柴宮みさ子

ずいぶん前義母のベットの傍らで習ったユーキャンの俳画戻る
岡谷 金森綾子

名を知る術ない 高木に咲くピンクの花に目をひかれる
岡谷 片倉嘉子

吾が庭に鬼ユリ突然咲きおり種はどこから飛んで来たのだろう
静岡 鈴木那智

ひとりの昼 カップラーメンすすりながら計画をねる 日曜日続く
鳥取 小田みく

心通じる友と一緒に笑い花を愛でいる我頬をそっと撫でゆく桜風
大阪 高木邑子

入道雲よそこから見ると俺は点か雨が答か
埼玉 木村浩

突然の四十度の熱が出て震える 嫁さんに来てもらう
飯田 中田多勢子

最近知ったうちの近くのカフェ 個人経営の店がやっぱり一番
東京 下沢統馬

雨に濡れて映える紫陽花も猛暑続きで色あせしょんぼりと
東京 赤穂正広

服を着せて貰い家に帰る東京から来た娘の介護兼病人教育が始まる
大田原 鈴木和雄

夏本番 最寄りの公園散策 緑陰の蝉時雨 自然界の生命うたげ
大阪 與島利彦

思わぬ油撥ねでてのひらに出来た水膨れのコロンと丸い痛み
京都 毛利さち子

若い頃博打で散財我が祖父は よく働いて世を去った人
小浜 川嶋和雄

木食にバナナを添えて一日を歩み始める命は明るい
東京 木下海龍

乾ききった空き寺の死に絶えた庭 住宅街の中の砂礫の谷間
山梨 岩下善啓

畔に朴葉を立て桑の棚にお供え 菖蒲酒を呑み田の神と語る
木曽 古田鏡三