素足(未来山脈2022年11月号より抜粋)

まっしぐらにわが家を目指せ赤いバイク君の手紙はドア開けて待つ
一関 貝沼正子

ゴルバチョフ エリザベスと訃報が続く 二十世紀が一段と遠くなる
大阪 加藤邦昭

月光に誘惑されて夜半のベランダ大きく息を吐く 私は狼
岡谷 三枝弓子

乾し柿吊るす中之条駅の風物詩特急草津が御辞儀していく
群馬 剣持政幸

幸せの青い鳥が突然に「孫が抱けますよ」と吉報を携えて
北九州 大内美智子

歴史ある二チームによる対抗戦 年に一度の晴れ舞台に立つ
神奈川 別府直之

紅い口紅がほほえみ華やぐ歌会 カフェテラスの秘め事を聴く
富田林 木村安夜子

ノリウツギの白い花ぶさ八方に意思疎通はかれぬまま秋に向かう
岡谷 柴宮みさ子

畑にふき渡る風とででっぽうの声 夫とじゃがいもを掘る
岡谷 片倉嘉子

指の節から抜けなくなった指輪 草取りして節々腫れる
岡谷 横内静子

つるつるり伸びに伸びた百日紅 主のいちいをはるかに超えて
岡谷 三澤隆子

事故の後苦しくて生きることに疑問さえ感じたが
さいたま 赤坂友

学生時代はほぼ百パーセント自炊 今日は何作ろうかな 考えるのが楽しみ
山梨 岩下善啓

父は雨母は太陽天と地に生かされて生きているのか
兵庫 明石の人

なるようにしかならないなんてとても悲しい「な」のりフレイン
仙台 狩野和紀

開閉の渋いアパートの玄関 九年ぶりの豪雪災害
青森 木村美映

今の自分は何かの者で泳いでいる 昔の俺は空を泳いでいた
岡谷 小口昌太

降りそうで降らない出ようか出まいか 深く悩む
原 太田則子

孫の検査結果は陽性と何時果てるのか しぶといコロナ
原 桜井貴美代

ふと窓の外を眺める 暗い森の向こうにまぶしいほどの緑の光
原 森樹ひかる

「あっ」ぬれた木道で向こう脛を強打する 声も出ない一分間
原 泉ののか

すやすやと雪は積もって段々に動かなくなる地球おやすみ
北海道 吉田匡希

ブダペストの「漁夫の砦」のレストラン テラス席からドナウを見下ろす
下諏訪 中西まさこ

功無き我も尊しと語る聖書のみことばに生き行く勇気促され
四條畷 高木邑子

秋霖の中に利休鼠の常念岳 今朝もどっしりとかまえている
松本 金井宏素

試験終え迎える夏の自由期間 今年の夏は何をしようか
東京 下沢統馬

からまわるあやまる言葉まねるときまひるの月にからまるリボン
東京 金澤和剛

湖につづく橋の上から川のぞく魚みえずさらさら水ひかるさらさら
下諏訪 光本恵子