光本恵子の選ぶ歌

「未来山脈」二月号から会員の秀歌を取り上げる。

・敬老の日 幼い絵手紙届く やさしさ教える教師にありがとう
山崎輝男

・早くはやく何かに追われる日々忘れ 自然の懐にいだかれる幸せ
宮原志津子

・定規を当てまっすぐ引かれたあの国境 今最も手にしたいのは世界地図
中村征子

・池の水が私の顔を映している 疲れた顔だが心は疲れていない
加藤邦昭

・寒風の戦禍のふるさとを思い涙する日本に住むウクライナの人々
征矢雅子

・書きことば話しことばを写しとる万葉仮名に「芳流(はる)」と書かれて
石井としえ

・「世の中はあわれ」と詩人がうたう 若者が死ぬおさなごが死ぬ
中西まさこ

・新麦の青さを愛でてしたり顔 祖父に似てきたわたしは米寿
木下海龍

・岩肌を流れ落ちる水すだれ白糸の滝は北軽にあり
桜井貴美代

・庭の木々もすべて葉を落とした細い枝先まで陽の光が浸透する
森樹ひかる

・我家のキャベツ 生 炒め 煮る 何でもござい芯まで甘い
太田則子

・あっぺとっぺ 思わず復唱あっぺとっぺ友と一緒にあっぺとっぺ
泉ののか

ヨガで自分を労わっていたつもりがまさかぎっくり腰に遭うなんて
大野良恵

・自分にもいづれ来る免許返納の日 見渡しても高齢の村
東山えい子

・どんなに遠くても定形郵便通八十四円で届く幸せ
杉原真理子

・床屋さんで色々人の裏話をする 自分の事は棚に上げて
鈴木和雄

・赤い橋の上からとばした石ころ孤を描いて吸い込まれて水面を揺らす
近山紘

・米子城跡へ登る後から男生徒に「お婆ちゃん頑張って」 え! 私のこと?
安田和子

・私にお手引きはない 突然繋いでK氏 恥ずかしいやらへたる
河西已惠子