いのち(未来山脈2023年3月号より抜粋)

夢がいっぱい詰まった顔の女子マネが高校時代の娘とだぶる
米子 大塚典子

急な坂道乗り越えて新しい道を駆け上がるランナーそこに私もいる
群馬 剣持政幸

太陽にそっと伝えた新年の夢 いのちある内に自分史練る
福知山 東山えい子

ピアノ教室に通ってまだ一年 無謀にもピアノコンサートに参加する
大阪 加藤邦昭

赤銅色の月が暗闇に希望という光を放つ 徐々に徐々に
岡谷 三枝弓子

まぼろしのごとく無音で雪は降り悔恨として地につもりゆく
下諏訪 笠原真由美

正月も三日になって窓見れば こぼした砂糖か屋根には雪が
小浜 川嶋和雄

年賀状卒業宣言あの人はお元気でしょうか風がささやく
大阪 花菜菜菜

言葉を吐いて紡ぐ短歌 今日も生きてるって自分に言う
富田林 木村安夜子

殉教のヤコブは七日後ガリシアに流れ着いたと星のお告げは
青森 木村美映

小さくなった父の背に 親不孝ばかりと娘のひとりごと
鳥取 小田みく

常緑樹と紅葉のコラボで山頂から見る下界はまるで絵の様
米子 安田和子

トースター音たててパン焼く匂いする今朝も我が家の生活リズムを刻む
静岡 鈴木那智

年末年始に一週間こもるこの機にぜひとも断捨離やってみたい
牛久 南村かおり

赤いトタン屋根のましろな霜が朝陽に輝き出す瞬間がすき
岡谷 片倉嘉子

中央道から見る富士の形状 きっと神様が造ったんだ
岡谷 横内静子

蜂蜜に似た匂いふっと思わず立ち止まる カーポートには柊の花
岡谷 三澤隆子

たそがれの諏訪湖畔に立つ女高生 瞳は湖の光を返す
さいたま 清水哲

暮れ近く詩吟の大先輩K氏から「畑で取れた」と大きな長芋届く
岡谷 花岡カヲル

遠方の施設を結ぶズーム音楽会 これが今風コンサート
大阪 山崎輝男

しおまち商店街を歩けば昭和の匂い 時の流れが心地よい
福山 杉原真理子

寒さもいよいよ容赦なく染み込んでくる裏起毛の肌着が恋しく
藤井寺 近山紘

いよいよ推しに会える日 まるで遠足前日の子供のような私
流山 佐倉玲奈

銀色の三角が連なって風になびくよ荒れ地で枯れた泡立草の群れ
京都 毛利さち子