いのち(未来山脈2023年6月号より抜粋)

やっとチョキができるようになった子 じゃんけんはチョキばかり
松山 三好春冥

つつがなく今日あるためにマスクして電車のなかの一人です
富田林 木村安夜子

古い屠蘇器と重箱 年に一度の目の正月で令和五年はじまる
米子 大塚典子

六月の月の下で柔やかに別れ話をしているふたり
横浜 上平正一

地元のアーティストの作品展 笑顔のマスク顔が競い合う
米子 角田次代

不幸な人生だった でもこれも主が不幸な人の気持が分かるようにと
つくば 辻倶歓

ひとりふたりと巣立ってゆき手狭だった部屋には春風吹き込む
諏訪 藤森あゆ美

半年の社畜で塞がった穴にピアスをとおす 自分に戻った気がする
甲府 岩下善啓

ひと月かけて咲き満ちてゆく梅の花 吾は今何分咲き
福山 杉原真理子

八十四年前亡母は初産私は逆児引っぱり出されて右足脱臼して出生
飯田 中田多勢子

講師はしなやかにゆるやかに弧を描き悠久の空気漂う
岡谷 片倉嘉子

諏訪湖を源とする天竜川 流れに沿いながら一路佐久間ダムを目指す
岡谷 横内静子

とり囲む枯葉を後目に咲き始めたクリスマスローズ 春を呼ぶ
岡谷 三澤隆子

春雨に満開なり桜木もしっぽりと濡れ人無き公園
静岡 鈴木那智

七十からは生かされるのだ生かされて学ぼうと夜間学校だった
大阪 花菜菜菜

あぁラクチン 炬燵にもぐり洗濯機の回る音を聞いている
千曲 中村征子

馬拉糕の穏やかな甘さ増えてゆくのは極端な事件ばかりで
京都 毛利さち子