太陽はいま(未来山脈2023年7月号より抜粋)

とてつもない雨まやかしの自由に浸り何処かの虹を見る
札幌 西沢賢造

日常から切り離されて白いベッドの上まな板の鯉になる手術前
京都 毛利さち子

天気下る予感 終日厳しい目眩に襲われる 季節変り目
諏訪 河西巳恵子

長崎の街は坂だらけ 自転車の数の少なさ日本一、ニとガイドさん
大阪 山崎輝男

シラバスのQRコードを読み取って頷いている学生たちに頷いている
下諏訪 中西まさこ

暖かいやら寒いやら体感温度計が不調なのか手間取る着替え
米子 角田次代

人はなぜ詠うのか なぜ詠わずにはいられないのかという問い
甲賀 中村宜之

イギリスでは羊の毛に名がありチェビオットとドネガルと言っている
諏訪 宮坂きみゑ

移転終え母の笑顔と涙見て 海の近くの病院を後にする
鳥取 小田みく

新しい居室の真ん中に遺影の吾子は微笑みぬ白い某紙の只愛し
四條畷 高木邑子

ここよここよと新緑の風を呼ぶから肉厚のましろい辛夷咲く
富田林 木村安夜子

ハコベたんぽぽ仏の座それぞれに春野を染めてゆく
福山 杉原真理子

会いたくて誰も居ない戸開ける時亡母の笑顔が待っている
下諏訪 長田恵子

川もを流れゆく花びらにたくす 悲しみを海に沈めるように
岡谷 片倉嘉子

恐竜時代に生まれた大断層めざして大鹿村へ車走らせる
岡谷 横内静子

都会を離れ男孫は明日から社会人に ささやかな祝宴
岡谷 三澤隆子

庭を色どる椿の鉢 切花を玄関にひっそり咲かせて喜ぶ
米子 三好瞳

イラーチェの工場前でふるまいのワインをペットボトルに詰める
青森 木村美映

子供らが遊ぶグラウンドの回りにはさくらの花が溢れている
横浜 上平正一

WBC世界一 神様日本に舞い降りた二〇二三年
米子 大塚典子

ねこベストに包まれてのり越えた冬 春の気配が背中に広がる
諏訪 増田ときえ

またもX線に暴かれる頚椎の痛み「四番と五番」と医師が裁く
諏訪 大野良恵

芽吹き始めた落葉松林にぽつんと椅子ひとつ 緑のシンフォニー
岡谷 三枝弓子

友が来る頃には夫の形見の牡丹が咲く 私も花も頑張っている
岡谷 佐藤静枝

若者の波に飲まれたならきっと漫才のごとくスイミーみたいになるわ
岡谷 今井菜々美

どこ見ても仰いだ空のカンバスに長い尾を引く彗星がいる
埼玉 須藤ゆかり

理性では止まらぬ追尾システムが勝手に動かしている眼球
北海道 吉田匡希

マスク生活の終わりを告げたはず 子どもの顔にはいままでどおりのマスク
流山 佐倉玲奈

五月は黒羽が一番美しい時私の庭も思い掛けない花が絶景を見せる
大田原 鈴木和雄