光本恵子の選ぶ歌 六月号より

光本恵子の選ぶ歌

六月号より

 

・深い霧の中からウグイスの声との響きゆっくりゆっくり参道を登る
市川光男

・さくらの報いうら道自転車で少女は髪をなびかせ走る
川嶋和雄

・中世は朽ち果ててゆき石積みのアルベルゲから見える星空
木村美映

・うぐい釣り今日はどこまで行ったやら息子が狙う炭川の澱
石井としえ

・息子一家と過ごした三日間 独居暮らしの贅沢を知る
永井悦子

・コロナで四年振りにご対面 見上げる背丈の孫に嬉しさ格別
三好瞳

・染め玉子二つに切って留守番の妻と賛美す主の復活を
木下海龍

・震災日 十二年も経ったのか 町の交番に半旗が見える
酒井国武

・お茶は日常コーヒーの時は短歌を考え夫を偲ぶ
宮坂きみゑ

・正月の大社行きを今年こそはと楽しみにしていた 突然の脳梗塞とは
小田みく

・全自動で進む世界に身をうかべ花と流れる 春が終わった
笠原真由美

・もういいか まだ働きたい 心が毎日闘っている 八十歳
東山えい子

・探しても見つからない言葉を思い出すまであてもなく待つ
大野良恵

・娘と孫の箏二重奏「さくら」の桜はいま盛り
宮坂夏枝

・いっしょに歌った「アヴェマリア」 あなたのアルトの声 耳底に残る
宮原志津子

・爺の子守歌はアンパンマン あしたはパパもママもお休みだね
三好春

・愛する人の霊がそばに居てくれる 花になって鳥になって
辻倶歓

・ 飛び立つ先には未知があり道がありだから迷わず前を向く
藤森あゆ美

・近づくと壊れるから寄らないで でも速くに行かず傍にいて
毛利子