光本恵子の選ぶ歌

十月号より

・咲き誇る薔薇を背に一輪の老いた薔薇として片隅に写る
河西巳惠子

・核廃絶は理想と笑う人々 笑われても私は信じたい人間の叡智と勇気
加藤邦昭

・どの樹もどの樹も寡黙つらぬいてモスグリーンの寡黙
木村安夜子

・庚申塔の桜と呼ぶエドヒガンザクラ語る母の故郷愛あふれてる
剣持政幸

・ピーピー冷蔵庫がわめく 人参きゅうり猛暑に馴れよ平気なジャガイモ
中村征子

・建前行きから本音行きに乗り換えよう 朝焼けがとても美しいから
杉原真理子

・セミが一瞬を生きる歓喜の声上げる 朝陽を受けて身体震わす
山崎輝男

・垣根をも越えて咲いている夾竹桃 影はヒラヒラ花びら動く
川嶋和雄

・参禅道場を持つ西日本唯一の大本山佛通寺 川沿いの佳き山水の地
岩下善啓

・人類の目標は便利な生活をすることだけか 深く考えたい
木下忠彦

・担当した本が退社後もかわらずに生徒に使われる不思議な感覚
岸本和子

・すがすが吹く風のような水流紋の練り切り 初夏の菓子処
毛利さち子

・会いたいな何でもかんでも話せる人に子どもや自分の未来について
石井としえ

・緑の葉っぱのモロヘイヤ口当たりのやさしいネバネバは胃袋も嬉しい
稲田寿子

・傷口は肌になるけどかなしみは無にしかならない花いちもんめ
吉田匡希

・出来ないよりも出来ること数えればまだまだいけるか私のこの先
大塚典子

・すっかりときりに包まれた静かな日曜日に救急車のサイレンひびく
小田みく

・散歩道でみつけたイタドリやスイコむかしみなこれ食べたっけ
市川光男

・秋の虫の声聞きながらiPad そのみずうみに花火が咲いた
須藤ゆかり