いのち(未来山脈2023年12月号より抜粋)

季節はずれの高原は寂しい全部の空気全部吸って私は私
岡谷 三枝弓子

能登半島が怒っている 金沢中心の世間の評価に
京都 岸本和子

大阪名所 淀川上空の中秋名月 老妻とアベック鑑賞・至福
大阪 與島利彦

秋分の日 境にやっと秋の気配ウォーキングを再開する
福山 杉原真理子

何かしら心に思うことあれば人みな空を見上げて祈る
札幌 石井としえ

夏休み終盤家族に襲いかかる体調不良も子どもはあっという間に回復
流山 佐倉玲奈

岡崎城の脇の龍城神社はパワースポット若者たちが列をなす
岡谷 征矢雅子

最低賃金のパートで粘る私を苦しめる値上げラッシュ
諏訪 大野良恵

未来山脈誌の表紙絵はかつては旅館街ゆかた姿の湯田坂の面影
下諏訪 藤森静代

去年の秋バッサリ切られたさるすべり 新たな花房まばゆい深紅
岡谷 三澤隆子

バッハの曲はテェンバロが似合う 時空を超えてバロックの世界
下諏訪 長田恵子

アコギの音が脳を潤していく 鳴り続けよ満ち足りるまで
丘や片倉嘉子

こおろぎが激しく鳴くように私も寒くなる季節を待っている
岡谷 横内静子

ずっと微笑んでいる彼女の写真 その美しい人柄がまわりを清める
茨城 南村かおり

実家の曽孫ななちゃんはみんなのアイドルかわいい女の子
米子 稲田寿子

君の夢心地よく見ていた処せっかくだったのに目が覚めていた
平塚 今井和裕

マグリットの青い空 不思議な形をして浮かんでいる白い雲
横浜 酒本国武

退院決まり心はしゃぐ いや 誰とも逢いたくない自分もいる
鳥取 小田みく

うすい朱で沈む西日は老う俺だ 青年の色雲まで燃える
小浜 川嶋和雄

ふり返ればヨーロッパがユーロになる前に各国に旅をした
諏訪 宮坂きみゑ

ドッジボールの汗乾かぬまま墨を擦る 息整わず字が躍る
神奈川 別府直之

布切を引き裂いたような輝いた雲がでている十月の秋ぞら
静岡 鈴木那智

日本では海の中に母が居て フランスは母の中に海が在る
山梨 岩下善啓

在米日系三世の女性は日本語を話せない 母親が教えなかったと言う
大阪 加藤邦昭

老いは悲観を増長させる 悲観には強面の強いまなざしで
奈良 木下忠彦