光本恵子の選ぶ歌
- 2023年12月27日
- エッセイ
光本恵子の選ぶ歌
十一月号・十二月号より
・火葬式に賛美歌が歌われる 駆けつけた遺族の心に染み入るように
南村かおり
・信楽の壺の中にティッシュの造花職員の優しさと知恵の白い花
高木邑子
・亡き娘と固く結ばれた友等毎年墓参りに今年二十三回忌となる
花岡カヲル
・九歳の私がもらったこげじゃばる なぜその名をつけたか遠い記憶
藤森あゆ美
・糸電話懐かしいもの今は過去 小学生のときのように作ってみたいよ
今井和裕
・琴線をはじいた右手は萎えるがよい 美しき調べはもはや我になく
中西まさこ
・アコギの音が脳を潤していく 鳴り続けよ満ち足りるまで
片倉嘉子
・シャワーミストをいっぱい浴び生き返った袋田の滝の激しさ
横内静子
・腰をのばし仰ぐ空に自由自在に泳ぎまわるトンボの群れ
三澤隆子
・「らしくぶるなかれ」と説いた恩師がいて今がある お礼も言えぬまま
長田惠子
・大阪地裁 水俣病勝訴のTVニュース 救われた生がにじむ
西沢賢造
・大阪名所 淀川上空の中秋名月 老妻とアベック鑑賞・至福
與島利彦
・ザルに盛ったブロッコリーの野菜買うついでに夫の好きな柿一つ
花菜菜菜
・音無き雨がライトに照らされ目をあげる座席には真黒の朝
石井義雄
・苦労して貯めた私の預金を使い込み若い彼女に貢ぐ老夫や
相川邦子
・下手でもなんでも気分を出して 伸びやかに筆ペンで宛先を書く
別府直之
・病室で亡夫と眺めた満月の美しさ三年の歳月は飛ぶように過ぎて
佐藤静枝
・宇宙と夜と海とこころが繋がって痛い思い出ぜんぶ一等星みたいだ
街川二級
・デイの日の「またね」の別れ不確かな未来に確かの思いをこめて
石井としえ