素足(未来山脈2024年2月号より抜粋)

雪をかぶった八ケ岳の峰は 青空にくっきり冴える
岡谷 花岡カヲル

追い詰められた夢でなく目覚め置時計の秒針確かめる
札幌 西沢賢造

禁煙を破ってピースに火をつける 答えのないまま朝は来るのだ
青森 木村美映

眼鏡の柄が音もないのにぎしぎしと悲鳴を上げ続ける夜には
埼玉 須藤ゆかり

意識不明に落とす神の手は世界一のデンテスト その先生の治療を受けん
さいたま 清水哲

故郷について最初に訪れるのは父の住まいリゾートホーム
茨城 南村かおり

道端の木にコロコロ実った柿の実が呼吸している退屈そうな秋の空
四條畷 高木邑子

振り返る若い頃など怖いもの無かったなあ学びもなかった
平塚 今井和裕

粉雪が降っている白い悲しい結末 色のない夜をとぼとぼ行く
岡谷 渡辺昌太

古き友から二十年ぶりの便りには浦島太郎を思い知る真実が
仙台 狩野和紀

のびてゆくからだよからだ 生き物が終わった後に残った肉
北海道 吉田匡希

カサンドラが目覚めたら短歌を子守唄に寝かしつける
福山 杉原真理子

アメリカ西海岸のドライブ旅行 窓外の太平洋に日常が薄れて行く
大阪 加藤邦昭

十二歳になった娘 私も母親として十二年 干支も一周
流山 佐倉玲奈

彼方の慕う気持ち先生も分かるよ いまは胸の奥にそっと秘密ね
伊那 金丸恵美子

古里は島国日本の尾っぽ的 奄美諸島 水平線の超太陽 永久に神秘
大阪 與島利彦

最後かと新幹線でクラス会 ホスピス抜けた旧友輝く
東京 木下海龍

残っている柿の実一つだけ木守りに君の木守りに選ばれたい
埼玉 木村浩

朝と夜温度高低差胸がバクバクと体内で鳴り響く
千葉 石井義雄

アウシェヴィッツに運ばれる囚人のように すし詰めの通勤電車に乗る
山梨 岩下善啓

ラジオから今年最後に流れてきたのはフランク・シナトラのマイウェイ
諏訪 藤森あゆ美

外洋に出る心配はない 白いオールが小さな海に乗り出す
千曲 中村征子

あの波にさらわれたあなた 息を止めて待っても戻ってはこない
下諏訪 光本恵子