光本恵子の選ぶ歌

二月号より

・京友禅の着物の柄 裏庭にあるうす紫の小菊は群れ咲く
三枝弓子

・窓越しに洗濯物を干す週末に届いた喪中ハガキを何度も読み返す
近山紘

・三世代で住んだ大きな家はもういらない小さな家にルンルルン
大塚典子

・笑い上戸の友とコロコロ笑った暑い夏 もうずっと向こうの景色
木村安夜子

・別れ際たもとに風あそばせて手を振るきみは夕影の女
上平正一

・昔 一番に愛する人は母なるか 今多くの愛にふれ合い生きる
東山えい子

・古い家見れば思うよ古里の 焼き柿食べたい囲炉裏囲んで
川嶋和雄

・息子の腕のなかで眠る孫の安らかな顔 こちらも眠くなる
笠原真由美

・かけ湯して初めて味わう湯けむりに期待いっぱいふわあっと深息
別府直之

・善光寺の戒壇めぐり背を屈め真っ暗闇を一歩また一歩
桜井貴美代

・冬の影 朝は短く夕方長い 私の影も一日でよく成長する
太田則子

・いらっむかっかちんこちんかっかどきどき 放出せよ
泉ののか

・Bye Bye Bye 私の命 谷村新司は本当にいなくなってしまった
森樹ひかる

・小春日和の段々畑 漂う柊の芳香 百舌鳥鳴いて畑仕舞
金井宏素

・自分の考えていることを口で伝える 人との距離感はずっと近づく
下沢統馬

・茶碗が欠けたので新しく買ったが古いのはまだ捨てられない
酒本国武

・靖国神社で正式参拝する今なお戦争が続いている事に胸が痛む
安田和子

・また明日も元気で鍬を持ちたいと洗い清めて納屋に収める
市川光男

・冬告げるジョウビタキ渡り来て紅葉いろ付く木漏の中で鳴く
鈴木那智