いのち(未来山脈2024年6月号より抜粋)

桜咲きだす暖かさのなか病院へ急ぐバイパス通ればこんなに近い
京都 毛利さち子

佐保姫様 能登で金沢で京都でもおだやかな春を待っています
京都 岸本和子

戦前の子ら皆よく働いた 戦後植樹の杉の花房吹雪に乗って一挙里へ
諏訪 河西巳恵子

春の淡雪が降った朝自治会長が子どもを連れ両隣三軒分の雪かきに
飯田 中田多勢子

車いすで礼拝に連れてこられし友は薄物の夏服で現れる二月極寒に
四條畷 高木邑子

そよ風なのか心のそよぎか 柔らかく背を押され一歩踏みだす
岡谷 征矢雅子

春休みに集まった日曜学校の子どもたち お泊りリトリートに嬉しそう
茨城 南村かおり

女房の友達がきてもう四時間かそろそろ帰れ犬の散歩だ
横浜 酒本国武

都会にいる子供から墓じまいをするように言われたという友
米子 安田和子

何気なく抱えた 肩先ほんのりと匂袋がはなをくすぐる
横浜 上平正一

男はつらいよロケ駅でスマホ構える娘にマドンナピース
米子 大塚典子

孫のひな人形を飾れる嬉しさ私の子供は男ばっかし
箕輪 市川光男

温泉街をぬけて実家へと向かう道 幼なじみの家々過ぎて
下諏訪 笠原真由美

歴史を現在に戻す 妻のビザ取得で夫婦で北欧旅行ができる 神に感謝
大阪 加藤邦昭

朝陽浴び窓から水仙を眺める 今日いちにちを励ますかのように
下諏訪 藤森静代

〇息子が蒔いたひまわり畑 遠く車の人にも手を振っている
大阪 與島利彦

中学生になった娘 真新しい制服に包まれ自転車をこぐ
流山 佐倉玲奈

涙雨 四十九日の納骨に静かに想う生前の父の姿を
鳥取 小田みく

七時間半のフライト 東シナ海を飛び越え シンガポールに一直線
東京 下沢統馬

雪に萎れた母の形見のカネノナルキ 彼岸の雨によみがえる
松山 三好春冥