私と写真
- 2024年6月28日
- エッセイ
金井宏素
・チムチムニーチムチェリー 回りの景色から煙突が消えてゆく
・凍土を突き破り芍薬の紅い芽が伸びてきた 八十七回目の春
・霙の重さに耐えきれず百日紅の天蓋が悲鳴を上げて崩れ落ちた
・常念坊の雪形も辛夷の花も 黄沙に霞むいつもの春
・窓を開けると残雪輝く表銀座の稜線が飛び込んでくる爽やかな五月
趣味は?聞かれたら写真と答えています。その原点は、私が本業としていた医療機器と写真が相互に重要なかかわりを持っていたからです。
暗室の薄暗い赤色灯の下、現像皿の中で徐々に濃淡が現れる不思議なX線写真、動脈血管を直視 できる眼底写真、フレキシブルな管の先端に超小型カメラと照明を内蔵し、胃壁の病変を直接撮影できるガストロカメラ、病理検査に欠かせない顕微鏡写真機材も医療器械の範疇で、ヘマトキシンとエオジンで赤と青紫に染色された病理標本は前衛絵画のように美しいものでした。
初期の心電図は特殊なカメラを用いて波形を記録し、測定が終わると暗室に飛び込んで現像したものです。
そんな日常的な写真との関わりから、いつの間にか趣味になっていたということでしょうか。
退職時、取引先のオリンパス光学社長から記念品としてイニシャルが彫込まれた高機能カメラセットを頂きました。今使用しているものはその二代目にあたります。
現在写真愛好家のサークルに在籍して、住居の眼前に広がる北アルプス連山や、四季の花々、飛来する野鳥や昆虫などを写していますが、スマホカメラで私より遥かに素晴らしい写真を写している方がたくさんいます。
良い写真はカメラの機能より、被写体に対峙する美的感性が大切だそうで、私の写真が上達しない理由はそこに起因していると思っています。