いのち(未来山脈2024年9月号より抜粋)

都合の悪い話は聞こえない振り不都合な言葉は切り捨てる術を覚える
藤井寺 近山紘

「聞いて!」と突然の病と入院を語る友 驚きと安堵が交錯する
米子 角田次代

新聞はチラシを見るだけ女房もクロスパズル欄だけ開く
横浜 酒本国武

往時を思い出して馬町界隈 下校時で歓声が上がる まぶしい
京都 岸本和子

憎しみと愛しみが交互に入れ変わる夜の深まりゆくあいだ
横浜 上平正一

なんでもない河原の草たち背が伸びて景色は夏模様われも半袖
愛知 川瀬すみ子

一生に一度きり使えない言葉をと河野裕子さん 切り抜きが見当たらない
諏訪 河西巳恵子

一つだけ良い事は悩みの種だった過体重 この度一・五キロの減少
米子 安田和子

金魚に上見横見が有るとは君だけ見えたらそれで良し
埼玉 木村浩

美容室の入口「髪を短く切って気持が良い」とK君が言う
岡谷 花岡カヲル

大涌谷に到着すると富士山が晴れやかに登場こころおどる
茨城 南村かおり

ブリキのおもちゃは懐かしい あとはモーター発光ダイオード
平塚 今井和裕

七月の風に樹々ゆれる おいでおいでと誘う昭和
富田林 木村安夜子

歌 チェンバロ ヴィオラダガンバ 教会中に澄んだ音広がる(小樂コンサート)
原 太田則子

四国へ四国へ夫任せの旅に出るハンドル握る夫を信じて
原 桜井貴美代

ぴょこぴょこ顔だす紅葉の花 赤いプロペラ大空みすえる
原 泉ののか

アルハンブラ グラナダ 次々と重厚なギターの調べが宿に流れる
原 森樹ひかる

誰もいないオフィスに挨拶をする朝 波紋のように声が広がる
甲賀 中村宣之

しまなみ海道を走り二十四年ぶりに訪れる平山郁夫美術館
福山 杉原真理子

狭庭で実った梅 二か月先が楽しみなシロップ漬けに
北九州 大内美智子

目分量で味付けした食事が終わる いつも何か足りないまま
松山 三好春冥