光本恵子の選ぶ歌 十一月号より

・猫じゃらしで少年が遊ぶ 心を救う詩の一つでも多い世の中であれ
街川二級

・柔道の阿部詩選手は不覚取る マット離れて泣く声は金
川嶋和雄

・朝早くから夕方まで学童で過ごす子供たち 手作り弁当で心を抱く
金丸恵美子

・暑いと床に転がっている事が多くなった飼い犬 俺も似てきた
酒本国武

・義父母の介護は六十代 米寿となり夫の介護に耐えているわたし
藤森静代

・ヨーロッパで生きる日本女性 日本は環境よりも目先のことばかりと
木下忠彦

・猛暑の中でぐんぐん伸びる畑の草私も欲しいそのエネルギー
佐藤靜枝

・猛暑の中で凛と立つ華奢な高砂ユリに思わず背筋が伸びる
角田次代

・小雨が降っては止んで 休日の雨の切れ間にサックス響く
片倉嘉子

・何の花ですかと鈴なりの鬼灯を見て若い職員嬉しいなこの感覚
高木邑子

・新盆見舞いに来てくれた従兄弟長いこと会わなかったら歳をとった
中田多勢子

・新しく移ったリハビリ病院 スタッフの笑い声ころころと響く
横内静子

・上物ですと時計屋が言う 三十年前に娘から貰った腕時計
三枝弓子

・雷鳴と共にタンゴのリズム奏でる葉加瀬太郎
桜井貴美代

・大輪の向日葵のぞきこむ 幾何学的に並ぶ小さな種
太田則子

・標高一五〇〇米の上高地 大正池から河童橋までの四キロをハイキング
安田和子

・理不尽は呑み込むのだと草笛光子さん 白髪が美しい
河西巳恵子

・素敵な靴を買いました一目惚れの布製の虹いろスニーカー
毛利さち子

・お悔みに身につけていた黒真珠ネックレス あれ 無い どこ
宮原志津子