現代歌人協会賞を受賞した足立公平『飛行絵本』
- 2025年1月31日
- エッセイ
足立公平歌集「飛行絵本」
・自己につながる時間を切断する 泡だち崩れ異常な水の染まりよう
・経済の問題のため お前を否定しようとしたか、おれの血のつぶやき
・叫ぼうとしたか知れない おれの記憶のまだ目もあかない幼い日のように
(「異常な水」から)
・二人並んで見ている川向うの灯 さつきから繰りかえす明滅の謎
・そこで何かが始まりなにかが終る 川向う私の知らない夜の企業もあろう
・対岸の火が染める片側の空をもち 草の匂いに沈もうとする
・いわば橋は通るためにあり 途絶えた橋の形がたもつ無気味な時間
・じっと動かず 姿をかえず 昨日も今日もいる雲はいないか
・ はたして天体は何色に彩られるや たとえば生臭い星などあつて
・せめて 化石が生きてきた証拠をのこすだろう恋しい化石の街街は
(「天体」から)
足立公平の「飛行絵本」は昭和四十年七月十五日、大阪市西成区東萩町五四 柳原一郎の制作である。一九六五年に受賞した。
四百部限定版で、この「飛行絵本」は現代歌人協会賞をこの年に受賞している。
昭和四十年(一九六五年)、口語自由律短歌の歌集において、初めての授賞である。(僕のようなのは短歌と言えるのかと思いながら)と、現代歌人賞を受賞した足立公平。そんな彼もまた迷いつつ短歌を詠んだのだ。
足立公平に初めて会ったのは、福田広宣の出版記念会、大阪阪急ホテルで、私の大学三回生、一九六六年の夏であった。
いずれはこの本を出版した柳原一郎について書いておかねばと思う。