いのち(未来山脈2025年3月号より抜粋)
- 2025年2月27日
- 会員の作品
一関 貝沼正子
隠しごと何もなけれど東京の人の流れに俯きてゆく
偶然を装う時の気まずさよたぶん相手も間の悪い顔
横浜 上平正一
ベランダの赤い薔薇が数ミリずつ延びて来る小さなしあわせ
沈みきったわたしのこころに薔薇の蕾が微かに広がってくるしあわせ
米子 角田次代
「元気だった?」ひと言が互いを思いやり会話が始まる貴女と私
人から人へと繋ぐ人の輪 人生を楽しくする輪 大切な輪
横浜 酒本国武
片道四○○米の道を二往復が飼い犬の世界 他へは頑として行かない
蝉の声がぱったり途絶え代わりに虫が鳴きはじめた
札幌 西沢賢造
宮滝古い入館者名簿時に背を向く青年の名をみる
吉野の夏の山道たどり西行庵いつの日かの青空
茨城 南村かおり
数年ぶり姉が我が家に尋ねて来る心浮き立つ冬休み
まずは牛久シャトーを見てもらう わずかばかりの地域観光
東京 桃谷具久夫
夏ガレージブールの児羨ましく初詣でまた一回り逞しく羨ましさ増す
蜜柑何でこんなに甘くなる口を窄めて食べて笑いたい
諏訪 宮坂夏枝
二○二五年がスタート ぎゅっと詰まった三年間を振り返る
年頭の検診 三年前の発病と治療 人生のタイムリミットを意識する
飯田 中田多勢子
デイのレク魚偏の字を問われる岐で「かわはぎ」「あじ」難しい
職員で元調理師のHさんが習った字の解説をしてくれわかりやすい
坂城 宮原志津子
後頭部強打する一瞬とぶ記憶 厳しい寒さ十二月あけきらぬ朝
脳神経外科CT検査「硬膜下血腫みられます」即入院 ドクターの声
松山 三好春冥
年の瀬にゼンマイ仕掛けの亀が猛ダッシュ 兎も鬼も笑い転げる
猛ダッシュするゼンマイ仕掛けの親亀子亀 年の瀬に笑う門あり
大阪 山崎輝男
食べる物も着る物もない瓦礫の街ガザ地区に寒波追い打ち
底冷えのガレキの中で息絶えた愛児抱きしめ立ちすくむガザの母
富田林 木村安夜子
津軽の方言が漬け物みたいでついつい笑うけど「どうすベー」おわりのない雪かき
今年もとどく ドカンと根雪 悲鳴をあげる津軽のま白い冬
甲賀 中村宣之
きみは差し入れを受け取っていない ずっと作業を続けていた
そっと缶コーヒーくらい渡してやればよかったと今さらおもう
小浜 川嶋和雄
庭の木木青のままだ変わらない どうだんつつじ一寸赤いか
自動車で若狭街道突っ走る 広がる稲株ひつじ田一つ
四条畷 高木邑子
雑煮餅思い切り長く伸ばして口に入れ私の今年の事始め
おやつを食べるのが私の仕事ズボンの繕いは私の手慰め
下諏訪 笠原真由美
かなしみが雨ふらす街 給油所で夫はつぶやく「レギュラー満タン」
喪の服と真珠に体温を吸われつつ助手席に見る雨の斎場誰からも離れて読経の声をきく扉をあければそこは水庭
原 桜井貴美代
千波湖の湖畔に咲く四季ざくら行き交う人々みんな笑顔
イカだタコだ客を呼ぶ声 活気あふれ賑わう那珂港
原 太田則子
花豆の夢を曲げてリース作り 松ぼっくりに野ばらの赤い実添えて
巳年にて「み」の形に草蔓曲げる 目は松の実飾りは赤い実
原 森樹ひかる
困難を極める場面でも笑顔で話しひょうひょうと健郎さん
こんな人と一緒ならいいな 私は心の底から憧れていた健郎さん
原 泉ののか
柏の樹いっぽん くしゃくしゃの葉ぎゅっと纏って此処にたつ
バチバチ背中をたたくのだあれ 昨日カラマツ今朝あられ