太陽はいま(未来山脈2025年4月号より抜粋)

北九州 大内美智子
二人逝き住む人の居ない屋敷にて 山茶花の花留守宅を守る
少し膨らんだ梅の蕾に思わず歓迎の笑みを送る

愛知 川瀬すみ子
世の中は仕事始めか この我は通院始め 一年スタート
花無ければ散ることも無いからいいね 病院の庭に常緑樹一本

大阪 加藤邦昭
寒波と寒波の挟間 出かけるのであれば今日しかない 妻に弁当を頼む
今日は未来山脈の作品を作る予定だったが寒の緩みが外出を誘惑する

京都 岸本和子
自由自在にとはいえ短歌だから 定型にはまった時の心地良さ
森見登美彦氏の「恋文の技術」 能登半島の根っこの町が舞台

横浜 酒本国武
女房からのメール 見るとネギも買って帰れと追加命令
「我々は微力だが無力では無い」良い言葉だと手帳に記す

岡谷 三枝弓子
夕暮れのオルゴールの音は愛の鐘 子どもの無事を母の祈り
オルゴールの音が街中に響き時を知らせる帰宅をうながす愛の鐘

米子 角田次代
月日は流れ寄る年波が物語る体力 今年は八十歳になる
粟島神社百八十七段の初詣 思いのほか心臓は荒れ狂う

埼玉 木村浩
屠蘇呑んで散歩すれば新年の風でも風は風
松の内朝から屠蘇だ竹でも梅でももっと長く続け

福知山 東山えい子
まっさらに生きようと決めた 十五からの日記束ねて処分
十五からの心を束ねて捨てる 八十二歳! 新しい一歩

諏訪 宮坂夏枝
八歳の孫秋華が我が家に泊まる特別な夜を愛しむ
宿題の催促のない祖父宅好きなテレビを見てゆっくりすごす孫

諏訪 河西已恵子
背負子負い山の畑へ 足元踏みしめ諏訪湖に気付かなかった子供の頃
山畑への道から湖水が見える驚き とうに五十を過ぎていた いい遠景

諏訪 小坂泰夫
ウラ声をうまく使ってミセスグリーンアップルみたいに歌いたい
思うように歌うにはオモテ声からウラ声を行ったり来たり

埼玉 須藤ゆかり
大根を一本分下茹でをする米ぱらぱらと願いのように
味がよく馴染むようにといくつもの隠し包丁入れてゆく

諏訪 宮坂きみゑ
中立国守ったスイスやポルトガル町が痛んで居なかった 街が健康
スイスには国連事務所がありいつも旗がひらめいて居た

平塚 今井和裕
まだ暗いまだかかるかな明けるまで情念込めて夢を包んで
この時代嫌だ嫌だでどうするの心明かして病んでしまうか

岡谷 三澤隆子
床の間の大きな鏡餅と片目のダルマ わが家を託す年の初め
快晴の諏訪湖畔に迎えた初日の出 まぶしき七時十分

下諏訪 長田惠子
偶然聞こえた一フレーズにどきっ シンディーローバーにまた会えた
あなたの色は美しいと力強く歌う 彼女の東日本大震災支援と重なる

岡谷 横内静子
新聞のパスワードで頭ひねって達成感 さっそく応募する
雪の八ヶ岳がキリッと光  家族の新年会に向かう車中

岡谷 片倉嘉子
灯油タンクは満タン 安心して暖かい正月を迎えられる
細川宗英の彫刻のわきにひいらぎ咲いて湖畔の風を受ける

奈良 木下忠彦一
肺心臓に加えて脳までも病む 天は何を見よ考えよというのか
三つの病が重なる からだの奥で終活を急かす声が大きくなる

福山 杉原真理子
ふくやま文学館木下夕爾生誕百十年詩と俳句企画展を訪れる
木下夕爾は郷土の詩人 生涯故郷に留まり詩集を六冊刊行した

松山 三好春冥
黒と金茶の防水靴二足を新調 昭和スタイルのお出かけ用に
お出かけには軽くて弾む靴がいい また五年は履けるだろう

下諏訪 笠原真由美
LINEありがとう私は元気・・・と打ちかけた指がとまって枝に残る雪
雪から晴れに変わる天気予報が「わたしは間違えた」を終わらせる

茨城 南村かおり
久しぶりのチラシ作り 前回は夫 今回はほぼ娘の作品
写真選びが難しい アルバムをスクロールして見つけていく