素足(未来山脈2025年5月号より抜粋)

岡谷 三枝弓子
・厳寒の如月にあっても青空と太陽が明るいから背を伸ばして歩く
・手編みのマフラーは九十七歳嫗から届く ありし日の母の後姿

千曲 中村征子
・「米がカラッポ」ヘルパーが戻る 米騒動の発端になるやも
・米がなくも駐車場満杯 二カ月先の供出に固唾を呑む

松山 三好春冥
・動けるうちに庭木を切り詰めた 半透明の袋の中で骨になる
・庭の手入れが辛くなる 切り捨てた木の跡を覆う草の影

埼玉 街川二級
・頭のいい人たちの気持ちはわからなくてうじうじと珈琲に溺れた
・孤独感のせいだけじゃないつめたさに自分で自分を抱くこともせず

鳥取 小田みく
・雪の中十三回忌無事に終え葬儀の折の悲しみ再び
・墓石までの雪の足跡続く中 一時の日の光に雪が止み

岡谷 花岡カヲル
・もうすぐ九十歳になる私 行く先々を思い年賀欠礼のハガキを出す
・車の運転免許更新の通知くるもう一度トライしてみようか

坂城 宮原志津子
・静かなブラットホームひとり電車待つ 落し物カギ一つ朝日に光る
・ぼんやり見上げる青空ふんわり白雲どこまで流れゆく 時待つ間

仙台 狩野和紀
・夕方の蔵王からの風は日替わりで優しくも厳しく頬を撫でる
・誰にも止められない自然の摂理に魂を吹いとられ寿命となる

飯田 中田多勢子
・玄関にいけたロウバイが満開に入ってくる人が皆「わあいい匂い」
・二妹が育てたヒヤシンスが台所のテーブルで芳香を放つ春そこまで

愛知 川瀬すみ子
・「味噌ラーメン」の隣りに「苺」の旗がパタパタ 二月のコンビニ
・窓ぎわの席が空いてたら寄って行こ ドーナツ食べよう珈琲飲もう

下諏訪 藤森静代
・雪が解けて風の落ち葉を踏む家の湧き水の流れさわやかに
・落ちの中 水仙にチューリップが背くらべ始めた我が屋の庭

諏訪 宮坂夏枝
・三十数年ぶりだろうか東京ディズニーランド娘一家と共に
・この娘と来るのは初めてのディズニーランド今日は孫たちも一緒

大阪 與島利彦
・令和七年三月十一日 東日本大震災から十四周年の追悼 災害続く
・令和七年三月二十日 春分の日 天仰ぎ御日様に 畏敬の合掌

福山 杉原真理子
・田畑を耕し家事 子育て 村務めをしながら詩作は深夜に
・心に希望と喜びが満ちる「松」温かな村の暮らしが目に浮かぶ

諏訪 宮坂きみか
・三毛猫が家族といっしょに十五年言葉も覚え眠るように亡くなった
・猫は魔物可愛がれば家に幸運がやって来るという言い伝えがある

東京 木下海龍
・古希まちか神学修めこの日こそ按手を受けて歓喜聖堂に
・古希まぢか按手を受けて顔明れて授与のストール深紅に映える

山梨 岩下善啓
・二年に一度の公園掃除 桜が見ごろ鶯も鳴く
・桜の花咲く町の公園 ブランコもシーソーも雨に濡れている

下諏訪 中西まさこ
・天の声 ダマスカスへと向かう道 ベニヤミン族の革職人に
・サウロ サウロよ お前はなぜ わたしを迫害する

伊那 金丸恵美子
・あることばが心にささる 画学生の絵を見詰めると涙が頬を伝う
・山の頂に建つ無言館閑か 生きたかっただろう画学生の叫びが響

愛知 稲垣嘉子
・桜梅水仙満開だねおとうさん生きてるってスバラシイよね
・車椅子の夫と庭を散歩する今日は娘が休みで嬉しいよ

流山 佐倉玲奈
・もうすぐ新学期 桜も菜の花も満開なのに外は冷たい雨
・観葉植物パキラの枝がどんどん伸びる 白い部屋にみどり

大阪 山崎輝男
・人々は忘れかけていた大切なものを取り戻した震災後
・震災のあと阪神間の鉄道は途絶した状況が数ヵ月も続く

近江八幡 芦田文代
・お離子に時々混じる錫杖の音 宿老二人が引きずってゆく
・十二人の離子方乗せ山車が動く 鉄車輪が残す白い轍

札幌 石井としえ
・おーい雲呼びかけてみる今日わたし話せる友の一人も居なくて
・散歩道燃える夕日に魅せられて無人の駅の跨線橋わたる

下諏訪 光本恵子
・戦争から平和への切り替え時に誕生して八十年
・戦禍の終わりは平和の始まり ゆるゆると苦渋のまなざしは笑顔に