光本恵子の選ぶ歌

・少子化や高齢化で働き手は減るばかり 社会の軋があちこちに
木下忠彦

・幼い頃の悪夢がこれだ 暗黒に自分のカラダがひろがってゆく
小坂泰夫

・きれいね きれいよ 白髪がとMさん がくん欅の葉ざんざ時雨れる
河西巳恵子

・限界集落の山村でお札を配る 心が洗われる思いする
岩下善啓

・「子供を誘拐した。身代金を送金して」心を乱す邪悪な詐欺メール
大野良恵

・半ペンの煮つけを肴に一杯の酒ああ身体に染みるぜ外は粉雪
市川光男

・朝日に喪中葉書を出し終えて師走の心一つ鎮まる
貝沼正子

・自動車で若狭街道突っ走る 広がる稲株ひつじ田一つ
川嶋和雄

・筆ペン教室の手本書き外せない辞書 私の学びの時間
角田次代

・夫の後追い歩調合わす寒い朝 霜柱ガサゴソ坂道つづく
桜井貴美代

・伴侶を亡くし涙する旧友ここにも前に進めない人がいる
佐藤靜枝

・暮らしという大河の一滴を歌うブルーインクで描く明けの海
須藤ゆかり

・天井のクモが蠅を待つように私も何かを待つ 床に転がりながら
酒本国武

・三月生まれの女性は気まぐれ 誕生日は選択できず 彼女は三月生まれ
清水哲

・大筆の大きな一の字を書いた様な雲浮かんでる今日のそら
鈴木那智

・十二支かるたで婆婆ぬき十二支に入れなかった鼠に負けた猫が婆婆
中田多勢子

・何かにつまづいて苦境に落ちるほんの一寸した油断が深みにはまる
近山紘

・坂の所で乗車人数が多いと進まなくなり皆が降りて進めたという
安田和子

・雑煮餅思い切り長く伸ばして口に入れ私の今年の事始め
高木邑子