いのち(未来山脈2025年12月号より抜粋)
- 2025年12月1日
- 会員の作品
札幌 石井としえ
- 久しぶり息子の友とかこむ「医は仁術」を説く頼もしさ
- 童顔になったと思えば「太った」と遅い夕食続く歯科医で
奈良 木下忠彦
- リハビリをかねて再びビアノ発表会に 稽古が脳に刺激を与える
- 病んだところを補おうと周りの脳が手助けしているかのようだ
横浜 酒本国武
- 生まれたばかりの蝉が前足だけで金網にぶら下がっていた
- あさ散歩に出ると濃厚卵の黄身のような色の太陽がいた
埼玉 須藤ゆかり
- とことこと夜をなぞって山手線たくさんの言の葉があふれる
- それぞれの駅が待つけど乗り合った顔 顔 顔がさまざま光る
鳥取 小田みく
- 今朝も又血管壁をおし上げ ず~んと高い血圧の数値
- ひさびさのゆるりとした朝むかえおり残暑きびしき今年の夏は
諏訪 宮坂夏技
- 十日間の日本一周クルージングに夫と参加一旦仕事を休んで
- めったに晴れない所でも行く先々快晴 夫が晴れ男のせい
埼玉 木村浩
- 花売り場に菊が増えた彼岸が近づいたかそれで気付くとは
- 菊食べニガミに夏バテを知る自分の体なのに
米子 安田和子
- 喉が変 まさかコロナ プールの中でもマスクしてるもの そんなー
- 盆の仕度で喉の痛みすっかり忘れ買物我家実家親戚の墓参で大忙し
伊那 金丸恵美子
- 「黄花晩節」老いるとも健康で気高くありたいと子からのメール開き思う
- 夕日が西の空を紅花色に染める 私の穏やかな日々やんわりと過ぐ
静岡 鈴木那智
- 秋むしの声を楽しみ籠に草を敷く虫はすぐ隠れ紛れる
- 虫籠をもち中を確しかむ龍の重さのみでみ命は存在
岡谷 花岡カヲル
- 夕方五時市の愛の鐘が鳴る 悲し気に遠吠をする近所の犬
- 庭石の上に蝉 人差指をそっと近づけるとぱっと飛び去る
近江 八幡芦田文代
- 何もしなかった していない自分に言いたいこと何
- ひらがなが好き漢字もまるいのが好きまるまるがいい痛くない
諏訪 大野良恵
- 今日の私を浄化する最初の一杯 あとはただ酔いに紛れる
- 節度ある飲酒を心がけつつカレンダーに休肝日はない
東京 桃谷具久夫
- 核の呵責アインシュタイン苛まれ溢れる懺悔コーラシュワシュワ
- 花綵は鉄条網にかえられて事大になれて長い物にはまかれろリード
坂城 宮原志津子
- とうとうあなたは逝ってしまった「今日あいに行くよ」とラインした朝
- 秋桜ゆれる園庭 園児たちと鬼ごっこ元気なあなたを思い出す
愛知 川瀬すみ子
- どの星にも 何か住んでたか何か住んでるか今から住むのが居るさ
- どの川も 地元の人らの生活の場いこいの場恐さを知っている人らの
岡谷 佐藤静枝
- 安曇野の山に迎えられ年一度仲間と学ぶ健康のつどい
- 平均寿命も健康寿命も越えず逝った夫の明朗な月
原 桜井貴美代
- 厚木まで曾孫に会いにひた走りアンパンマンのベビー服と
- 八十路越え曾孫に会える喜びに心は弾む足どり軽く
原 泉ののか
- ひまわりプロジェクトに参加する 届いた六粒のたね
- 絵にかく向日葵の中心は格子 よぉく観ると螺線状
原 山下ナツ子
- 手から手へ 小さな絵本から蝶が飛んだ
- 娘の車が曲がり角を曲がり消えていく ふたたび一人
原 太田則子
- 何光年も前の星のきらめき 今の一瞬が短くも尊い
- 夏の大三角の間に天の川 神話を思い目をこらす
森 樹ひかる
- もう後戻りできない チャレンジに挑む毎日の私
- 舞台に立つ自分の姿を浮かべるのは恐怖でしかなかった
松山 三好春冥
- 冷凍ビザの加熱が足りなかっ た責める者はいない無精の食卓
- 焦げた食パンの耳を熱いココアに浸す ほどよい加減は難しい