ネバーランド

ネバーランド

三好春冥

子供たちが年を取らずに暮らせる理想郷、ネバーランド。そこで繰り広げられるピーターパンと海賊フック船長との戦いや、さまざまな冒険に私は胸を躍らせた。そして新天地に旅立ちたくなり宇宙図に赤い気球を描いた。しかし、迷い込んだのが太陽系第三惑星。その星での生活は文字通り惑うことばかりだった。ところで、ピーターパンは地球時間で何歳になるのだろう。初めて登場した物語は一九〇二年と言うから、もう百三十歳くらいか。

大人になりたくないと思った私の願いは叶わず、 次第に暑くなる不可解な星で年を重ねている。ある日、私は猛暑に負けまいと氷水を一気飲みした。まさに年寄りの冷や水。愚者の浅知恵だった。腹の調子が治るまで湯冷ましを飲みながら沈黙。すっきりしない人生ではある。こんな日常の一コマでも一首を生む糧にはなる。

歌ごころが湧く対象は無限にある。特異な環境ではなく、平凡な日常にこそ必要だ。季節の移ろいや懸命に暮らす生活者の姿にも心は動く。方法論は人それぞれだが、しっかり現実を押さえていれば後は自由に想像を膨らませ、非日常の世界に遊ぶことができる。自分の感性を信じて楽しもう。

「短歌があれば生きられます。」これは現代口語短歌誌「未来山脈」主宰、光本恵子の言葉だ。そこには他者を慈しむ優しさと、励ましとも言える厳しさがある。特に女性として「不合理な因習」に耐えながら闘ってきた。光本の言動に多くの者が勇気と希望を持ち、精神的に解放されている。光本は常に有言実行。不可能という選択肢は無い。俊敏な光本に、鈍重な私は追いつけない。

詳しくは、笠原真由美編「宇宙に呼吸する―光本恵子の歌と人生―」(東洋出版)を見てほしい。笠原は編集後記で「光本恵子は類い稀な熱量の持ち主である。劇的な半生から生み出された作品はその力強さにおいて読者を魅了し、また同時に不思議な大らかさとユーモアで人を笑顔にする」と的確に述べている。そして、笠原の「湖のある街で―光本恵子との日々―」は、「光本と出会ってからの約二十年間における印象的な出来事」を詳細に記録。笠原もまた、光本と同様の境遇を克服した。そのほか、複数の執筆者の深い思いを知るとき、足元の地球から宇宙の星々へ視野が広がっていくだろう。

国の内外を問わず昔話や童話には残酷な描写がある。それを和らげる脚色の是非はともかく、子供たちの夢を育む物語に生まれ変わっている。さて、私の終の住処は自宅か施設か、それとも――。叶うなら冷暖房完備のネバーランドで童心に帰ろう。孤独死なんて、冗談じゃない。