あ・ら・か・る・と(未来山脈 第295号より) 

家じゅうに朝靄のような新米の香り一年の辛苦を味わう

松澤 久子

東京がオリンピック決定の朝 その頃俺はもう居ないかな

山田 治子

走り去る十一歳の息子の背中 遠くなるほど大人に見えて

藤森 あゆ美

ひとり暮らし交歓会も十二回目 見えなくなった顔新しい顔

大内 美智子

妻は八十六歳で私を残してあの世に行った耐えるよりない空しい一人

伊藤 文市

朝の陽ざしに糸トンボが障子に騒ぐあら一夜をともにしたのね

関 アツ子