和風土(未来山脈 第301号より抜粋)

古寺の庭に咲く杜若今はひとりで見るその紫は永久の色

大阪 井口文子

 

雪残るゴールデンウィークの乗鞍 雪より白い水芭蕉さく

岡谷 三枝弓子

 

咲くままに咲かせておけば葉牡丹が四月の午後を大あくびする

一関 貝沼正子

 

京都西山古寺巡り 散った椿に木漏れ日が射し真紅に燃えている

大阪 山崎輝男

 

嫁いだ娘が泊った夜はなぜか幸せに思ってしまう親バカ

木曽 古田鏡三

 

蕗の薹がとどいた 天麩羅と蕗味噌に ほろにがい春を感じて

岡谷 堀内昭子

 

桜花散り水面に再度咲く花のいかだは風のまにまに

塩尻 増澤千弘

 

急にあちこちガタがきた生きているってこういうこと72年の歳月

坂城 宮原志津子

 

母のこと幸せに育ってきたあの時あの時代

成田 荒巻あつこ

 

地響きのよう 若さを競い合う一万人の走者 道沿いには黄色のれんぎょう波打つ

長野 増田隆

 

痩せた土地といつも気にしていた 夫が植えたボタンにつぼみ付く

岡谷 武井美紀子

 

送って行ったときは泣いたけど迎えに行ったら嬉しそうに走ってきた児

神戸 佐倉玲奈

 

映像の笑う幼子のあどけなさ吾が子を重ね涙こぼれる

仙台 田草川利晃

 

大雪がなければ山に居るはずの動物 腹ぺこで街中にやってきた

諏訪 宮坂きみゑ

 

秋には三つの花を咲かせた白い菊 太陽に向かって

松本 下沢実乃里

 

ぎーこんぎーこん足踏み脱穀機は止まらないうねる向こう山

群馬 清水篤

 

子燕の餌をねだる声で私も目が覚める巣には雛が親は何処で夜を明かす

長浜 中森ちか子

 

窓から見える早春の海の色は母が作ってくれた草餅の色だと話す友

下伊那 熊谷米子

 

桑畑が千本桜の名所になった 美しさと安らぎを求める時代に

諏訪 松澤久子

 

貧弱な苗は何故強かに根付くのであろう 執念に似た野心の塊

群馬 剣持政幸

 

はぐれ雲ひとつ無い空が円い 平家谷の桜の若木が花をつけた

松山 三好春冥

 

バルテュスの絵はちょっと苦手 硬くてわたしを酔わせない

下諏訪 光本恵子