地に長く(未来山脈 第306号より抜粋)

四季の雲が四季の木の葉と疎通するその間を人生の重荷を背負い歩く

大阪 井口文子

 

台風の翌日寒くなったので衣替えの序に着ない服を東北へ送る

大田原 鈴木和雄

 

素っ裸で両手真上に伸ばし片足ポーズ 五分後服着て出勤準備

大阪 加藤邦明

 

79バイトの画像 晩年に思い出して泣くかもしれない

東京 堀江美奈子

 

出来事はじっとみつめて花になるまですわっている

下諏訪 笠原真由美

 

夢でしかないなら埋めようのない距離 危うげな一日の終わり

札幌 西沢賢造

 

年月が当時の出来事変異させそれぞれの記憶に微妙な差

諏訪 藤森あゆ美

 

共に九十四歳の老夫婦が並んで座る 幸福が座る

北九州 大内美智子

 

白の玉砂利におかれた石三つ 一坪の宇宙朝の静寂に

茨城 坂口廉

 

土にたずさわる人は何百年の歴史を踏んで冬場に少し休むだけ

木曽 古田鏡三

 

同期成会に着ていく服が決まらない季節の変わり目が女心をもて遊ぶ

米子 大塚典子

 

今頃気づいたこと 彼岸花は土手でまっすぐ直列に咲く

奈良 庄司雅昭

 

オレンジ色の夕陽が天空に映えて西山に沈んだ壮大な落日

諏訪 百瀬町子

 

巨大なブルーモスクが天を射る雨のイスタンブールの色は鮮やか

大阪 山崎輝男

 

何事も力を入れる私に力を入れない歯磨きは至難の業

米子 安田和子

 

真っ赤な彼岸花が咲き青空にうろこ雲が広がり畑の片隅の田舎道

岡谷 宮澤己代子

 

「アナと雪の女王」の大ヒット曲につられて 椅子に座るファミリー

諏訪 大野良恵

 

一人もよしと裏山の角を曲がれば熟れて待つ無数のあけびの実

岡谷 土橋妙子

 

休耕田の太陽電池パネル 農作業をする人が見えない風景

天理 坂井康子

 

牛も馬も彼草原の中にあり野付半島の風は冷たい

北見 泉忠

 

イエスタデイ 悩み事など遥か遠くにあったのに

下諏訪 中西まさこ

 

今年 僕のところにサンタが来たらこう言うよ ありがとう愛してるよ

長野 岩下宗史

 

久々に履いたショートパンツ 成長したのかお腹引込める長女

諏訪 浅野紀子

 

順番見送りのできる人生 普通であるからこそ幸せ波瀾はおこる

岡谷 武井美紀子

 

朝露に雀むらがりあそびいる一時なごむ施設の庭に

鳥取 大谷陽子

 

明日は明るく平和の陽はのぼりますだから生きられます

大阪 伊藤文市

 

豚汁を並んで貰う 味はいいが肉はない無料だからそれでもいい

茅野 こまつ極宙

 

草むらで熊と思い青年は手を叩きながら来るほっとして笑顔

諏訪 松澤久子

 

長い暗闇を通過しながら新しい駅舎に着く晩秋の冷え込み

群馬 剣持政幸

 

三連休が始まる ズシリ腕が折れつつチラシ集団

千曲 中村征子

 

パチパチと肩をたたかれふりむく 笑顔の友人がいた私もパチと一つ打つ

徳島 古川眞