山や野や川(未来山脈 第307号より抜粋)

現代口語短歌誌「未来山脈」2015年1月号より会員の作品を紹介します。

台風で予定ずれたからと娘に誘われて枯葉色の風呂にふたり

諏訪 関アツ子

 

なにもかもプライバシーと片付けて なかに生づく人は何者

山形 高木史郎

 

極限時でも優しさ忘れぬ山男少女にかけたジャンパーに泣く

北九州 大内美智子

 

桜の宮のホテルロビー 街中なのにビルが見えないから好きという

奈良 庄司雅昭

 

きっと向くその葉の尖り丸く刈りおだやかにせん幸福の木を

一関 貝沼正子

 

鳥獣戯画展に誘う夫 すき焼きおごると足取り軽い

富田林 木村安夜子

 

短歌作成に体力はいらない しかし気力と能力はどうかな

岡谷 立野行雄

 

この病院の番犬なのか入り口に降り立つ患者を品定め

諏訪 藤森あゆ美

 

雨ががりの上高地真青な空とどこまでも済んだ梓川の水に全山の紅葉

岡谷 武井美紀子

 

ほんわりと豊かな薫りが我が家をつつむ 金木犀さいて秋を知る

岡谷 三澤隆子

 

「さっちゃん靴下の穴あいてるよ」抱きしめた孫に教えられる

岡谷 武田幸子

 

一面ピンクの赤そば畑のかたわらを二両編成の電車が走る

岡谷 片倉嘉子

 

テントが並ぶ運動会 児のバトン渡す瞬間を祈る思いで

岡谷 金森綾子

 

チェストベリーの忘れ花はとりわけ色濃く手の平から消えない香り

岡谷 柴宮みさ子