山や野や川(未来山脈 第312号より抜粋)
- 2015年6月2日
- 会員の作品
現代口語短歌誌「未来山脈」2015年6月号より会員の作品を紹介します。
諦めと受容こもごもわたくしの心を冷たく駆け巡りつつ
青森 木村美映
散歩の足伸ばして歩む播磨坂 百数本の桜は咲かず幹から小さな蕾
水戸 及川かずえ
良き悪き 子供時代を 思いかえさせる そんな 瞬間でしたかね
鹿沼 田村ゆかり
苔むした岩の上の落椿 木漏れ日に目を射る赤と黄
大阪 山﨑輝男
それぞれが恋をしながらかからみ合い逃げる背中を追いかけてゆく
高崎 清水篤
孫と並ぶサンダーバード車窓に遠く雪の白山連峰を見る
大阪 鈴木養子
ホワイトボードに残された孫のお絵かき見ているだけで心ほっこり
坂城 宮原志津子
庭の白梅五分咲き紅梅はちらほら春のさきがけ
岡山 廣常ひでを
先日までの暖かさ一転しての春の雪が地面に木々に白を加えて華やか
原村 中村としゑ
東から湖面を雁の群れ 西風に乗り高く山の形になり北へ帰雁見送る
岡谷 花岡カヲル
伸びて縮んでまた伸びる 箸は届かず泳ぐラーメン丼
千曲 中村征子
地下鉄を乗りついで夜を行く大都市は深夜もねむらず
白山 神寧君
赤岳、横岳は朝日に映えて心も洗われるような 眺めながら食事もおいしい
茅野 名取千代子
朧月が花の筏を乗り換えのりかえ揺られてゆく
横浜 上平正一
長いようで短い二年 役員の苦労はすべてプラスに変えて
岡谷 佐藤静枝
久びさに歌友に電話すると明るさが伝わって嬉しく励まし合う
諏訪 宮坂きみゑ
水無月は敬愛すべき方々のとてもめでたき誕生日
仙台 綱尾守
棟上式で拾ったお餅の思い出を語り継いで欲しい 伝統行事も引き継いで
米子 稲田寿子
明日からも容易ならぬ歩みだが独立三十周年記念祝典への門出に
藤沢 篠原哲郎
桜の小枝を渡り花を咳む小鳥の番 そっとそっと飛びこえておくれ
伊那 金丸恵美子
任務終え帰国日きまった息子家族 過ぎれば三年間夢のごとく
岡谷 三澤隆子
打ち寄せる波に逆らい沖へ向かう鴨は旅立ちのよそおいか
岡谷 柴宮みさ子
恵那山トンネルを抜けると信濃は吹雪 知多はもう春でした
岡谷 金森綾子
リンゴに群がるメジロ、ヤマガラがにぎやか 小鳥たちは仲良し
岡谷 武田幸子
細い身体に大きいランドセル 風よふくなかれ一年生の登下校
鳥取 小田みく
燃え上がる炎に包まれた森の木立はちりちりと悲鳴を上げる
岡谷 片倉嘉子
湖畔に鳴り響くサックスの音色に思わず歩いてしまった
岡谷 横内静子
現役時代をひきずった自意識過剰な人が前を塞ぐ
北九州 大内美智子
当麻寺本堂屋根に音韻をきこう ― 千年の千万人の祈りの視線重ねて
各努原 加藤昇
祖父も信州の教員だった 退職後は自宅(いえ)で子どもたちを教えていた
下諏訪 笠原真由美
不用品の処分に思い切れず手間取る 昭和生まれの悪いくせ
諏訪 百瀬町子
露天風呂から富士山が見える湯 ジュリアと一緒につかる
下諏訪 中西まさこ
アメダスの言うとおりにはならねえと片意地を張るための日本晴れ
東京 金沢和剛
独りで大きくなった顔をしてみる 同じ齢ごろの母の写真が笑う
諏訪 関アツ子