太陽はいま(未来山脈第314号より抜粋)

現代口語短歌誌「未来山脈」2015年8月号より会員の作品を紹介します。

時空を超えたシャッターの音がセピアいろの君をうつしてしまった。

横浜 上平正一

 

はつ夏の光のなかにキンレンカが晴ればれと咲く 逢えてよかった

下諏訪 笠原真由美

 

週末は雨ばかり 堆積した時間を掘りに地下の古書店へ行こう

松山 三好春冥

 

やがて降る雨の音がもう聞こえてくるこの未来はかつての過去

京都 毛利さち子

 

玄関の真紅のゼラニュウム四鉢朝の目を射る

岡山 廣常ひでを

 

目指すは諏訪湖 青空とそよ風と友だちわたしの最良の一日

岡谷 佐藤静枝

 

源平合戦のくりから峠で武者たちの呻きは濃緑の陰で鎮まっていた

各務原 加藤昇

 

老人ホーム入居はかわいそうの思いもあって再び始まる家での介護

福知山 東山えい子

 

今夜のパスタはアルデンテ遺影のあなたはグラス片手に「美味しいよ」

大阪 鈴木養子

 

続けられるだろうかパート九年目 今日も自転車のペダル踏む

天理 坂井康子

 

古希は稀だと言った七十歳 今ではワンサといる時代になった

米子 安田和子

 

私の人生に悔いなしですか 一難去ってまた一難なのです

鹿沼 田村ゆかり

 

たれさがる暦の一枚五月十二日午後二時十分 吐息はつながらない

岡谷 土橋妙子

 

夫の癖字が懐かしい農業日誌あなたはページの中で生きている

諏訪 百瀬町子

 

紫陽花、ベルベロン、月見草、夾竹桃散歩の道に今年もあえた

水戸 及川かずえ

 

五月のさわやかな風に乗って聞くオオルリの声森に響く

岡谷 宮澤己代子

 

歳月にみがかれて丸くなった人歩いてきた道見え隠れ

北九州 大内美智子

 

兼業農家の連休は未だとばかり田畑に出る

諏訪 宮坂きみゑ

 

何もなかったかのように朝日が昇る残雪の駒ケ岳が眩しい

箕輪 市川光男

 

自販機と防犯カメラがある公衆トイレに四世帯の燕が落ちつく

岡谷 柴宮みさ子

 

押し入れに眠っていた蒲団 綿打ち直しキュッキュッとよみがえる

岡谷 横内静子

 

爪ほどの卵殻をすから出すしぐさの親ツバメ ひな誕生を知る朝

岡谷 三澤隆子

 

青空に白い雲ふわふわ 鯨や白くまになって 童話が書けた

岡谷 武田幸子

 

朝日にまぶしい真っ白なYシャツ 君の存在もひときわ光る

岡谷 片岡嘉子

 

かたくりの花が咲き里の神楽殿に声発する女がひとり

岡谷 金森綾子

 

歌が好きだった立野さん 声は透き通って自由に行く

下諏訪 青木利子

 

石臼を利用した玄関前の蹲に花を活けたりする ごつい男手で

大田原 鈴木和雄

 

鉢の限られた土に育った枇杷はじめての実を何鳥かが食べた

大阪 井口文子