右手左手(未来山脈第315号より抜粋)

現代口語短歌誌「未来山脈」2015年9月号より会員の作品を紹介します。

灯台の下の暗さを確かめるために灯台まで行けよ僕
東京 金澤和剛

幼く穏やかな時代に両親と旅をした地へ風が誘う 異国の父の墓に
諏訪 関アツ子

こどもらの見守り終えた女(ひと)が通り過ぐあじさい色の朝の小径を
横浜 上平正一

かがり火のように夜どおし命燃やし淋しさはきえずに朝がくる
下諏訪 笠原真由美

人も草花も自然の摂理に姿を変える 太古のままに今日は青空
岡谷 土橋妙子

引揚船 せまいタラップの下は緑の海 天津の記憶
東京 上村茗

湖や山から風が狂ったように木々を揺らす ぴたりと止む風の道
岡谷 花岡カヲル

ベランダの鉢植えハイビスカス 夏陽を浴びて真赤に燃える
大阪 興島利彦

炎天下集合場所は八釼神社 出発までの木かげが涼しい
諏訪 宮坂きみゑ

ドバイ空港のアラビア文字芋虫が這っているようなかわいい文字
米子 安田和子

いつもは安らかなお地蔵様の顔が苦悩の顔 私が苦しんでいるからだろうか
つくば 辻倶歓

同じものでも 人によって 味 歯ごたえ「皆 違います」個性です
鹿沼 田村ゆかり

吾輩は猫年齢で百歳だ 主人よ聞きな長寿の秘訣を
小浜 川嶋和雄

そよそよ快く吹く風刈り取られた草のにおいを感じる夕ぐれ
諏訪 上條富子

年々多くなる法事や病気葬式 祝い事に招かれるは嬉しい
岡谷 武井美紀子

ザリガニ狩(と)り幼き頃男の子と行った皆真っ黒になって
成田 荒巻あつこ

納得のいくまで納豆かきまぜて正座をくずす休日の朝
仙台 田草川利晃

ハハハハと笑って聴いたお説教それでもしばらく身につまされる
札幌 石井としえ

太陽を見つめる奴がいるその決意は何をやらかすのか
東京 中村千

飛行機に乗った夢を見た どこまで行こうか宇宙の果てまでも
茅野 名取千代子

天体に手が届きそうな惑星の大地に立った あの日はもう来ない
茅野 こまつ極宙

杖すがる爺に公園の園児はハイタッチ 若葉はそよぎ歩行延ばす
長野 増田隆

長雨の今こそ私の出番です 山あじさいは緑の中で白さ際立つ
原村 渋谷時子

高原の山間に咲く栗の花 一万歩めざして今日も二人で
原村 桜井貴美代

愛犬に誰より先に会いたくて急ぐ家路の足取りはやい
原村 河野浩士

ダウン症の書家・金澤翔子 崇高なる魂の書は見る人の涙を誘う
原村 河野多紀子

妻と歩く高原は霧の中あきらめつつも緑の景色見たくてひたすら進む
原村 百瀬善康

平凡な日常を短歌(うた)にする 気が付かなかった小さな感動がいくつもあった
原村 中村文江

仏前に座すると皆がほほ笑んで包んでくれる守られている幸せ
鳥取 小田みく

明け方にうつらうつらと君の夢を見る情けない男になってしまった
青森 木村美映

カラカラ回る氷にはじける炭酸 短い夏の短い夜を味わう
諏訪 大野良恵

誕生日にひ孫から花束を嬉し涙の白寿の叔母さん
飯田 熊谷米子

千葉と長野で過ごした一週間 無事に神戸に帰宅しました
神戸 佐倉玲子

墨を筆に含ませ半紙の上に落とす時 この一筆が出来不出来をきめるこわさ
米子 稲田寿子

昨日より赤くなった紫陽花 思い切り愛されたくて
下諏訪 青木利子

貰った腕時計は私の鈴 可愛さが気を鎮めてくれる
東京 堀江美菜子

毎日猛暑キンキンに冷えた水をコップに注ぐとみるみる大粒の汗
諏訪 浅野紀子

アイスクリームが欲しいと妻それを見越して買って置いたのは正解
大田原 鈴木和雄

鏡を見るのが怖かったベッドの生活 髪は抜け顔肌はどす黒い
下諏訪 光本恵子