太陽はいま(未来山脈第318号より抜粋)

マナーモード解除するの忘れた携帯に耳を案じるメールが届く

諏訪 関アツ子

日曜の夜は冷蔵庫の肉に葱、糸こん、豆腐、舞茸でスキヤキを作る
大田原 鈴木和雄

威風堂々とまっすぐに伸びる木にも何があったのか こぶこぶ
米子 笹鹿啓子

ていねいに右折していく教習車に失ったものが見えた気がして
下諏訪 笠原真由美

九月も半ば蜩の声が悲しげに秋の気配を連れて耳元を掠めてゆく
藤井寺 近山紘

母親という国家資格があるならばそのテキストを学びたい
諏訪 藤森あゆ美

道ばたに群れて咲くコスモス 大風が吹いてもしなやかにゆれている
米子 稲田寿子

にぎやかな子どもの声消えて高齢者増えて町内老いていく四十年の歳月
天理 坂井康子

提出日近くになれば短歌詠む 山を見ている庭にたたずむ
小浜 川嶋和雄

喪中のはがきクリスチャンでも出すのかと聞く妹の娘
東京 保坂妙子

東の山の端に赤く大きな中秋の名月 一瞬不思議な世界へ引き込む
岡谷 花岡カヲル

地元の人に喜んでもらえたらが貴方の口ぐせ いつももうけ無しで
鳥取 小田みく

何がどうあろうと明日も土と草との戦い安保法ではなくて
木曾 古田鏡三

いつもお着物姿 茶道の先生と思い二度も夢見た
水戸 及川かずえ

看取り師という職 納棺師の職 かかわり歩む現代社会
諏訪 伊藤泰夫

赤あかと燃えた彼岸花はさみしそうに見えても心がなごむ
諏訪 松澤久子

木の間がくれた見える小さな空のくもの巣を風がそっとゆする朝
さいたま 山岸花江

風に吹かれた枯葉が肩を寄せあいひそひそと話をしている
横浜 上平正一

ゆうびんきょくいんさん ふるさとはとってもすみよいところ
鹿沼 田村右品

さして広くはないけれど我が家の下に広がる田畑に若者が来た
福知山 東山えい子

布団を干す手もうきうきとして東京の友があした泊りにくる
岡谷 佐藤静枝

草原に集まった高原の花たちやさしい音色で秋を奏でる
原 渋谷時子

月あかり枯葉ひらり湯の中へ ほっこりあたたか露天風呂
原 桜井貴美代

幼子の写真を胸ポケットに入れていたと聞く父の思い出はあたたかい
原 泉ののか

山ゆりききょうおみなえし夏草の中を泳ぐ花に向かって盆花とりの子
原 中村としゑ

凡夫の身内政治ではなくヤンキーでさえキューバと語らう世界への道へ
藤沢 篠原哲郎

高台から仰ぎ見るスーパームーン 湖や街の灯りも明るい光の中
岡谷 山田治子

三択のクイズの答え理由なく気分で選ぶ今日のテンション
一関 貝沼正子

草色のカマキリと目が遭うベランダとろとろと暖かい秋だ
富田林 木村安夜子

一年の月日の流れが早すぎてとめたい思い 十月紅葉の季節
諏訪 上條富子

長女が帰省炊事はお任せ南瓜煮ても一味違う
岡山 廣常ひでを

年取るとは不自由になる老人を見慣れている看護師は簡単に言う
諏訪 河西巳恵子

大山の紅葉も終わっただろうか 南壁の新雪の美しさは忘れがたい
琴浦 大谷陽子

静寂の体育館に合唱と合奏が響く小学生の音色
諏訪 浅野紀子

木の梢雨のしずくの形して花梨が残る虫住まわせて
札幌 石井としえ

吹く風に身を押されつつあでやかに光る楓の木の下をゆく
青森 工藤ちよ

巡る季節にわが身を重ねる 暑さ寒さに苦楽をのりこえて
米子 永井悦子

なりたい自分になるためにとるにたりない悲しみを払う
札幌 西沢賢造

人は老いて有終の美を飾れるか カラスも知らない姥捨て山がある
松山 三好春冥